エルダー2021年6月号
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2021.610なっていると、その裏側で動いている仕組みや考え方を学ぶ機会がないのです。その仕組みや考え方を知っているシニアは、それらを若手に教えて、基本から理解することを手助けできます。基本がわかっていると応用にも強くなります。それは若手にとっても意味があることです。もちろん、すでに陳腐化していて、若手に伝える必要がない知識や知恵も多少はあるでしょうが、シニアから伝えておいたほうがよいこと、伝承しないとすたれてしまうような知識、技術などもあるはずです。従業員が活き活き働ける職場を目ざし〝シニアの働き方のロールモデル〞をところで、強みがたくさんあるシニアですが、実は、一方で若手に遠慮している側面があります。ある企業で60歳になった方を対象に人事部が面談を行いました。人事担当兼キャリアコンサルタントが、面談の最後に「会社としては、シニアの活躍をより一層推進していきたいというメッセージを出しているので、これからも活躍してくださいね」と伝えたところ、「でも、シニアが張り切っていたら、若い人たちに迷惑でしょ?」、「再雇用の立場で意見などいってよいものですか?」と自分のふるまい方について、いろいろと気にしている人が意外に多かったそうです。「自分としてはやりたいこともまだまだあるし、それができる能力もあるとは思いますが、定年退職して再雇用の立場なのに、“現役”時代と同じようにふるまっていいのか」、「若い人たちから疎うとまれないか? 目立たないようにしているのがシニアのふるまい方なのではないかと戸惑う」とあれこれ考えてしまうようです。こう考えてしまうのは、彼ら自身がこれまでのシニアの処遇を見てきたからかもしれません。しかし、もう70歳まで働く時代は到来しています。これからはもっと長く働くかもしれません。60歳になっても10年15年と職業人生は続きます。シニア人材が、やる気を持ち、どんどん新しいことに挑戦し、取り組んで、活躍できる環境を整えるのは企業側の責任でしょう。そして、そのことをシニアの耳だけではなく、心にも届くように伝え続けることも大切です。もちろん、若い世代と異なり、シニア層には、老眼で細かい字が見えない、記憶力が低下している、同じ話を何度もしてしまう、話が長くなりがち、といったネガティブに見える側面もあることでしょう。若い世代と同じようなスピードを求められてもすぐには動けないかもしれませんし、瞬時に多くを覚えて対応するといった場面では、聞き返しなども発生するかもしれません。でも年齢の特徴をふまえたうえで仕事を進めていけばいいだけの話です。シニアの活躍を本気で推進し、それに応じるようにシニアが活き活きと活躍していたら、そこに「シニアのロールモデル」も生まれます。いまのミドルもいずれシニアになります。若手もミドルも「シニアのロールモデル」を間違いなく見ています。「こういうシニアになりたい」、「高齢になっても挑戦しながら、楽しそうに学び、働くシニアはいいな」と後に続く世代に思われるようにするためには、シニア個々人の努力だけでなく、企業側、マネジメント側の支援は欠かせません。経営者も管理職も活躍してほしいというメッセージを伝え続け、シニアの活躍を有形無形で明確に支援していってください。たなか・じゅんこ 1963年生まれ。トレノケート株式会社(旧:グローバルナレッジネットワーク株式会社)人材教育シニアコンサルタント。 1986年日本DEC入社、1996年より現職。企業の人材開発の支援を行っている。産業カウンセラー、キャリアコンサルタント(国家資格)。著書に『はじめての後輩指導』(経団連出版)、『現場で実践! 部下を育てる47のテクニック』(日経BP社)などがある。

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