エルダー2021年6月号
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2021.614報道されていましたから、不安はそれほどありません。インフルエンザのワクチンを受ける気持ちで行きます。とにかく自分の身は自分で守るしかありません」(藤野さん)。大蔵代表取締役は、コロナ禍における高齢職員の存在について、「新型コロナウイルス感染予防のため、事務職や介護職は細こま々ごまとしたことに時間を取られています。そんななか、藤野さんをはじめとした高齢職員の方々が降雪の備えをしてくれたり、年中行事の準備といったことを率先して進めてくれたりするので助かっています」と感謝を口にする。同地は豪雪地帯のため冬は雪の対策が欠かせない。昔から「雪囲い」といってトタンを使って家屋や建物、エアコンの室外機などを風雪から保護することを行ってきたが、これはコツがいる作業であり、高齢者の経験がものをいう仕事である。同様に、樹木にも雪囲いをして雪が積もって枝が折れないようにもする。最近では若手職員が高齢職員のまねをして雪囲いを行い、コツを習得するようになったそうだ。若手職員に強いることなく、自主性に任せて技術の伝達が行われていることは注目すべき点だ。職場という場所で、厳しい冬を越すために不可欠な地域伝統の作業が伝承されている。それは高齢職員の技術はもちろん、姿勢と知恵が、現在もそしてこれからも、必要とされていることにほかならない。「私たちは第一線で働いているわけではないので、事業所の下支えを行うなどドライバー以外の仕事も積極的に行うようにしています。年末は餅つきの手伝いをしたり、先日は花見の会場の準備をしました。花見では楽器ができる職員が演奏をするなどして会を盛り上げます」(藤野さん)。介護施設および老人ホームでは、コミュニケーションを活発にし、身体を動かすという視点で、健康維持やストレス解消になる年中行事やレクリエーションは欠かせない。コロナ禍においても行事を実施するために、感染予防をしっかりしながらフォローする役割をになっているのが藤野さんら高齢職員である。ほかにも、施設内に設けた畑で野菜を植え、育てることも買って出ている。畑に実った収穫物を害獣から守るためのネットも高齢職員が率先して設置しているという。高齢職員と利用者が一緒に楽しめる場を創出していく元気な施設利用者は、高齢職員が行う畑や行事の準備を手伝うこともあり、認知症、孤立の予防にも一役買っているようだ。「高齢職員は利用者と年齢が近く、親しみやすいのではないでしょうか。コロナ禍でも行える、高齢職員と利用者が同時に楽しめて生きがいになる活動を考えていきたいですね」(大蔵代表取締役)。今後は雪囲いの作業のほか、郷土の保存食「かきもち」をつくるなど、地域のお年寄りが昔から行ってきた手仕事をレクリエーションとして取り入れ、高齢職員の活躍の場を拡げていきたいと考えているという。そのほか、施設内に託児所を設置することなども検討している。人材確保の観点で、未就学児を子育て中の看護、介護職の獲得に有利であることはもちろんだが、施設利用者と高齢職員が子どもと触れ合う場所になることも期待している。同社はこれまで行ってきた感染予防対策を継続していく一方、コロナ禍においても高齢職員の活躍の場を創出するための工夫を凝らしていく。これと同時に、利用者の機能回復が望めるような施策を進められるように努めていきたいという。

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