エルダー2021年6月号
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特集コロナ禍や自然災害に立ち向かう働く高齢者の底力エルダー17学校や公民館での避難生活を余儀なくされた人もいた。にもかかわらず、翌朝、従業員たちは会社に集まった。「みなさん、ご家庭に電気も来ていない状況で、避難所に避難したり車中泊をした人もいましたが、『どうせ家にいても片づけはできないから』と、自主的にお店に出て来てくれました。もちろん自宅もたいへんです。でも、みんなが心配したのは『会社はどうなっているだろう』ということ。思いは同じでした。そして、できることからやろうと、一致団結して片づけをしました」と前田さんは語る。自宅も大きな被害を受けてたいへんな状況なのに出社したというのは驚くが、「待っているお客さまがいらっしゃるじゃないですか。お客さまを大事にしたいという思いで出社しました」と藤坂さんはいう。こうした緊急事態においてベテラン従業員がどのような役割をになったのか。竹本さんは、「みんな一緒です。若いも年寄りも関係ありません。まずは店をオープンする、そしてそれを維持することを目標に、年齢に関係なく、みんなで取り組みました」と説明する。店長経験者で年長者の竹本さんが率先して若手と一緒になって動いたのは、仲間たちにとって精神的な面でも心強かっただろう。全員のがんばりにより、本震から3日目には物産館の営業再開にこぎつけた。「ずっと動きっぱなしで、何をしたか覚えていないくらいです。本当にみんなが協力してくれました」と前田さんはいう。地域のため、お客さまのために店舗での販売や炊出しなどを実施「当社に何ができるか」と話し合った同社は、「地域のみなさんは食べ物に困っているだろう」と考え、出せる食品は在庫も含めすべて店頭に並べた。水道の水は濁って使えない状態だったので、知り合いの業者を通じて水を手配し、米を炊いて、自社商品であるレトルトパックの「かしわめしの素」を使ってかしわめしをつくった。物産館では、それを利益度外視の1パック100円で販売し、各地の避難所では無料で提供した。また、毎日数千個の卵をゆで、物産館でも避難所でも無料で配布した。しばらくすると、被害が比較的少なかった生産者から順に少しずつ野菜を出してくれるようになり、それらを店頭に並べることでお客さまに喜ばれた。「動き始めると、『これがあるから、こんなことができるよ』、『できることからやっていこう』と、みんなが動いてくれました。従業員はみんな元気でしたし、笑顔でした。お客さまに『お店が開いていてよかった』といっていただけたことで、疲れは感じませんでした。『きつい』とか『疲れた』という声は出ませんでした」と前田さんはふり返る。店舗が平常に戻るには、1カ月ほどかかった。さらに、阿蘇など被害の大きかった地域の業者が商品を出せるようになるまで半年〜1年もの期間を要した。その間、同社は、生産者たちを気遣い、励まし、相談に乗った。生産者と長年かかわってきた藤坂さんが「どうですか? 被害はないですか?」と電話をかけると、「心配被災直後から従業員が一体となり、被災した地域の人たちのための取組みを行った。写真は、卵を無料配布したときの様子(写真提供:株式会社コッコファーム)

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