エルダー2021年6月号
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2021.620経験を積んだ年長者は、若手の教育やフォロー、あるいは、人脈やコミュニケーション能力を活かした役割をになうことが多い。また、三宅さんは、顧問として、非常時の対応などを相談されたり任されたりすることも少なくない。「技術はどんどん進んでいて、若い人たちは最先端技術を駆使して仕事をしています。私たちはそれについていくのはむずかしいので(笑)、それよりも人対人のやり取りや、若い人の教育などを担当します。先を読んだ行動や何かあったときの対応などにも、経験を活かすことができます」と三宅さんはいう。早期復旧・復興を目ざし休む間も惜しんで作業に邁進同社は、西日本豪雨により、3階建ての本社の2階まで水に浸かる大きな被害を受けた。幸い、社員とその家族は全員無事だったが、自宅が浸水した人もいた。三宅さんは、「全国各地の災害のニュースを見るたびに『たいへんだろうな。かわいそうに』と思っていましたが、まさかここ岡山でこんな災害に遭うとは想像もしていませんでした。『晴れの国おかやま』ですから」とふり返る。岡山県では、7月5日、6日と大雨が降り続き、地域によって大雨特別警報や避難勧告・避難指示が出される事態となった。同社は、雨の降り続く6日夜、国の出動要請を受けて被災地に向かい、24時間体制で河川の補修・復旧にあたった。三宅さんは、「夕方には、出動要請があるかもしれないと用意していました。夜9時30分に集まろうと決め、雨のなかを出社しましたが、そのころには、真備町の一部地域は腰くらいまで浸水していました。通行できない道を避けて私が出社したときには、すでに先発隊は現地に向かっており、私もすぐに後に続きました」と、当時の緊迫した状況を語る。国の指示に従い、初めは、一級河川である高梁川で土ど嚢のうを積む作業を行った。三宅さんによれば、川で一番怖いのは、川の水が増えて外側にあふれ出る「越えつ流りゅう」。川の内側は、少々水が当たっても壊れないように頑丈につくられている。一方、外側は、わりあい簡単に土を載せたような形で、越流すると外側が削られ、弱くなったところに内側から水圧がかかって決壊する。酒さか津づというところで川がカーブしており、「ここが決壊したら、倉敷市中がたいへんなことになる」と心配していたが、急に水が増えなくなった。高梁川に合流する小田川などが決壊したためだった。高梁川が増水したことで流れがせき止められ、いわゆる「バックウォーター現象」※が発生し、その結果、水位が上昇して越えっ水すいし、堤防の外側が削られて決壊したとみられる。日付が変わる前に、指示を受けて決壊した小田川に行くと、付近は辺り一面が濁流に飲み込まれ、手の施しようがない状態だった。「堤防から真備町を見ると、何が起きたのかと一同唖然とし、言葉を失いました。見慣れた景色が一変し、屋根しか残っていないのです」と三宅さんは話す。自衛隊やレスキュー隊による懸命な救助活動と行方不明者の捜索が行われたが、真備町だけで51人もの人が命を落としたという。その後は、水が引くのを待ち、復旧作業が始まった。同社をはじめとする地域の建設会社も、自治体の要請を受けて全面的に協力した。三宅さんのチームは、生活道路に堆積した土砂の撤去と道路の洗浄を担当。生活道路を通れるようにしないと被災者の生活も成り立たないので、ここが終わったら次はここ、その次は……と、休む時間も惜しんで作業を行った。若い社員は体力があっても、このようなだれも経験したことのない状況下では、どう動けばよいか迷ったり、気配りが行き届かなかったりする面もある。普段以上に、三宅さんのような経験を積んだ人の力が活きる。「道路の洗浄が担当でしたが、道路わきの水路も土がたまって水が流れなくなっていましたので、そこも掃除※ バックウォーター現象…… 河川において下流側の水位の高低などが変化し、上流側の水位に影響を及ぼす現象。大雨などの増水により、 支流の水が本流の流れにせき止められ、水位が急上昇して堤防の決壊を引き起こす

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