エルダー2021年6月号
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2021.622きて当然、して当然という教育を受けてきました。経験を積むと、目配り、気配り、心配りができるようになりますから、少しは役に立っているのかなと思っています」と謙虚に語る。この「目配り、気配り、心配り」というのは、三宅さんが普段から心がけているモットーでもある。仕事をするなかでは、「ここにこういうリスクがあるのではないか」、「こういう予想ができないか」、「こうしたら利益が増えるのでは」と、ほかの人が気づかないようなところにも目を向け、一般住民、施主、従業員、下請けなどさまざまな立場に立って目配り、気配り、心配りを大切にしている。若手に達成感を味わってもらい自分で考えて乗り越える力を育てる豪雨から約3年が経つが、いまもまだ河川の復旧・整備のための工事が続いている。今回の経験を活かし、国主導で災害のシミュレーションもしており、同社もそれに協力している。同社自体も、緊急用の土嚢袋、ライト、ライフジャケットなどを用意し、災害に備えている。「インダス文明も黄河文明も、文明が発祥したのは川からです。結局、人が文明を築くうえで欠かせないのは水なのです。だからみんな、川のそばに住んで生活しますが、その『命の水』によって災害がもたらされる。そのことに人類は数千年前から悩まされてきました。自然の猛威には勝てません。そのなかでどうやって人の命を守るのか、社会を守るのかを考えていく必要があります。人がつくったものは必ず壊れます。想定した強度には耐えられるようにつくりますが、しょせんは人がつくったものです。永久はないという前提で対策を立てなければなりません」と、三宅さんは気を引き締める。そこで大事になってくるのが、三宅さんたちの後をになう若手の成長だ。三宅さんはいつも、若い社員に対して、「会社は小さいけれど、いろいろな仕事をして、そこに足跡を残すんだぞ」と伝えている。つらいことがあっても、「私がやった」という達成感を味わってほしいという願いからだ。「私は若いころ、鈴鹿峠のバイパス工事に7年間たずさわり、開通式で涙しました。一時、スーパーゼネコンが『地図に残る仕事』というコマーシャルをしていましたが、まさにその通りです。当社は小さいですが、『私があの建物を建てた』、『あの橋をつくった』という達成感を味わうことができます。自分たちのつくったものが人々の暮らしを支え、残るわけですから、お金では得られないものがあります」と、三宅さんはこの仕事のやりがいを熱く語る。若手を教育するうえで心がけているのは、まずは自分で考えさせることだ。「私もそうでしたが、若いころは、自分で考えて自分で悩むことが大切です。いきなり『どうすればいいですか?』と質問するのではなく、これを解決するために自分はどうしたいかと考える。『どうすればいいですか?』、『こうしなさい』だとそれで終わってしまい、自分で考えて乗り越える力が身につきません。だから、本人の動きを見て、問題を抱えているようだなと思っても、簡単には口を出さず、『悩め、悩め』といっています(笑)。自分で悩んで克服するから成長するのです。そうするなかで、旧態依然としたやり方を見直すアイデアも生まれます」という三宅さん。時間はかかるが、こうした若手の育て方をするからこそ、災害などの非常時にも自ら考えて動ける人材へと成長をうながすことができるのだろう。「昔の人もいっていますが、企業が残さないといけないのは、お金ではなく人。人を残せば、利益もついてきます。企業が存続するためには、人を育てることが何より大事です。学校で知識を学ぶことも大事ですが、社会に出たら、それを活かして、『こうしたほうがよくなるのではないか』と自分で考える知恵を、若い人たちには現場で身につけていってほしいですね」(三宅さん)

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