エルダー2021年6月号
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エルダー27FOOD日本史にみる長寿食食文化史研究家● 永山久夫ラッキョウで免疫力強化古くは薬用として珍ちん重ちょう炊き立てのほかほかごはんとラッキョウの甘酢漬けは、実に相性がよく、ほどよい酸味がごはんの甘さを引き立てます。その効果はカレーライスの場合にいっそう際立ちます。カレーの辛さをラッキョウ漬けがマイルドにしてくれるためです。かんだときの音がまた絶妙で、ラッキョウはパリパリと音まで“うまい”のです。原産地は中国といわれ、ユリ科の植物です。日本に伝えられたのはかなり古く、平安時代の事典である『和わ名みょう抄しょう』には、「おおみら」とあります。ちなみに、ニラは「こみら」と呼ばれていました。当初は薬用として珍重されていたようで、当時の医術書である『医い心しん方ほう』には、身体の動きを軽くし、飢えにも強くして老化を防ぎ、あるいは毛髪が伸びるなどとあります。臭気のもとは硫化アリルで、血栓の予防や血液のサラサラ作用で知られ、若々しさを保つ成分として注目のビタミンEも含まれています。ウイルスなどに対する免疫力を強くしたり、細胞の老化を防ぐビタミンCも豊富で、脳の老化を防ぐ葉酸も含まれています。また、水溶性の食物繊維が多く、腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整えて免疫力を高める効果が期待されています。疫病を追い払う江戸時代の『農業全書』には、「味少し辛く、さのみ臭からず、効能あり、人を補い温める」とあります。その食べ方については、塩や味噌に漬けたり、煮たり、酢味噌をつけて食べても「味よき物なり」と述べ、さらに「ゆでて酢としょうゆに漬けたものも美味」と記されています。江戸時代の人たちは、私たち現代人よりもはるかにラッキョウに親しんでいました。シャックリが止まらないときには、ラッキョウの酢漬けを食べるとよいという俗信もありましたし、疫病が流行したときには、戸口に束ねたラッキョウをつるしておくと、病気が入ってこないという厄払いも行われていました。古くは「辣らっ韮きう」の文字をあてており、これがなまって「ラッキョウ」になったようです。332

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