エルダー2021年6月号
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2021.62城西大学経営学部 教授 塚本成美さん制もないので、その点にも留意する必要があります。シルバー人材センターも「請負」が中心ですが、もっとも弱いのは労働災害などの補償の部分です。シルバー人材センターは、事故の補償について「シルバー保険」という独自の保険を持っていますが、高齢者はケガや病気など健康を損ねやすい面があるので、一定の保護策を講じる必要があるのではないでしょうか。―高齢者の就業を取り巻く環境は大きく変化していますが、そのなかでシルバー人材センターが果たしてきた役割と意義についてお聞かせください。塚本 シルバー人材センターは、1974(昭和49)年に設立された「東京都高齢者事業団」が源流です。たんなる就業斡あっ旋せん組織ではなく、高齢者の積極的社会参加を目ざす「生きがい就業」と、地域の活性化を目ざす団体です。創設を主導した大河内一男※先生が書かれた本のなかで、私が感激したのは「高齢者に自主・―70歳までの就業機会の確保を努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が、今年4月1日に施行されました。改正法の意義と制度の課題についてどのように考えていますか。塚本 働くことは社会とつながることであり、政策として70歳まで働くことが保障されることは、働きたい人たちにとってはよいことだと思います。一方で50代以降の世代のなかには、そんな年齢まで働かないといけないのか、と否定的にとらえる人もいるなど、二つの側面があります。制度ができても、高齢者が安い労働力として扱われないかという懸念もあります。定年後の再雇用では、仕事は同じなのに給与が下がるという話を聞きますし、65歳を過ぎてさらに下がることがないように、運用も含めて整備していく必要があると思います。 また、就業機会の確保という点では、今回の法改正で業務委託契約や社会貢献事業への従事も選択肢に入りましたが、最低賃金の規自立の気概を持たせることが福祉の本当の意味だ」という言葉です。そのためにも収入は大事であり、経済的自立は人間にとって柱となる重要な要素であるといっています。高齢者自らが主体となって仕事をつくり出して社会に貢献し、地域を活性化していく。そうした誇り高い仕事をすることがシルバー人材センターの役割であると位置づけています。 1975年に東京都江戸川区に最初の高齢者事業団がつくられ、1980年にはシルバー人材センターに移行、1986年の高年齢者雇用安定法で法的に位置づけられ、市区町村単位の設立が可能になってから、シルバー人材センター(以下、「センター」)は急速に拡大しました。現在では、全国に1335団体、71万5558人の会員がいます(2020年3月末時点)。センターごとにさまざまな活動をしていますが、最近は空き家の管理や子どもの見守り、昨年はマスクの製作なども行っています。 65歳を過ぎると、これまでの人生をふり返ることが多くなります。高齢者にインタビューすると、「社会への恩返し」という言葉がよく出てきます。日本人特有の思いかもしれませんが、その気持ちは大事にしたい。高齢者の積極的な社会参加をうながすのがシルバー人材センターの役割※ おおこうち・かずお(1905~1984)…… 経済学者。東京大学総長、社会保障制度審議会会長などを歴任。社会政策、労働問題についての研究が多く、著書に『独逸社会政策思想史』、『社会政策の経済理論』など

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