エルダー2021年6月号
47/68

告(2名)が、定年後の再雇用(以下、「嘱託社員」)中の労働条件が、業務の内容および当該業務にともなう責任の程度(以下、「職務の内容」)並びに当該職務の内容および配置の変更の範囲(以下、「職務の内容および変更範囲」)に相違がないにもかかわらず、正社員と嘱託社員の間で差異があり、基本給の差額、正社員が受給している賞与と嘱託社員が受給した一時金の差額などについて、争った事件です。なお、原告らの賃金と正社員の賃金、賞与などの総額を比較したとき、嘱託社員の賃金は正社員の45%または48・8%程度にとどまり、その額は月額約7万5000円または約7万3000円にまで下げられていました。なお、この事件も、旧労働契約法第20条が適用された事件である点には注意が必要(現在は、パートタイム・有期雇用労働法(以下、「パート有期労働法」)が適用されることになる)ですが、同一労働同一賃金に関する最高裁判例後の裁判例として注目すべきと考えられます。この事件においては、職務の内容および変更範囲について、正社員と嘱託社員の間には差異がないことが認定されています。この点、パート有期労働法が適用される場合には、その他の事情が考慮されない可能性があり、今後は、職務の内容および変更の範囲のいずれかに相違を持たせる必要があります。ただし、この裁判例では、定年時に主任職を解くという特徴があり、責任の範囲に変更があったともいえそうですが、役職手当の不支給により労働条件に反映されているとしており、その他の職務の内容および変更範囲に相違がなかったことを前提に判断したという点があります。この裁判例で注目しておきたい点は、定年制のとらえ方です。裁判例では、「定年制は、使用者が、その雇用する労働者の長期雇用や年功的処遇を前提としながら、人事の刷新等により組織運営の適正化を図るとともに、賃金コストを一定限度に抑制するための制度ということができるところ、定年制の下における無期契約労働者の賃金体系は、当該労働者を定年退職するまで長期間雇用することを前提に定められたものであることが少なくないと解される。これに対し、使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合、当該者を長期間雇用することは通常予定されていない。また、定年退職後に再雇用される有期契約労働者は、定年退職するまでの間、無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている。そして、このような事情は、定年退職後に再雇用される有期契約労働者の賃金体系の在り方を検討するに当たって、その基礎になるものであるということができる」としており、定年後の再雇用として考慮される〝その他の事情〞を具体的に表現しているものといえます。この部分を見ると、定年後の再雇用であることから、賃金の相違に対して合理性を肯定しやすいようにも見えますが、裁判例の結論としては、基本給と賞与に関して、正社員の60%を下回る部分に対して、旧労働契約法第20条に違反するものであり、正社員と嘱託社員との差額を損害と認定し、さかのぼって支払うことを命じています。定年後再雇用者に関して、上記の通り長期雇用を前提としていないこと、および老齢厚生年金の受給などにより賃金が補填されうることや退職金が支給済みであることなどを考慮しても、「とりわけ原告らの職務内容及び変更範囲に変更がないにもかかわらず、原告らの嘱託職員時の基本給が、それ自体賃金センサス上の平均賃金に満たない正職員定年退職時の賃金の基本給を大きく下回ることや、その結果、若年正職員の基本給も下回ることを正当化するには足りない」と述べて、旧労働契約法第20条違反と評価しました。この事件では、正社員の賃金が賃金センサスを下回っていたことに加えて、若年正職員(嘱託社員と比較すれば、知識、経験が劣る教育・指導の対象者)よりも低額に抑えられてしまっていたことが影響していると考えられます。さらに、賞与が基本給と連動する内容であエルダー45知っておきたい労働法AA&&Q

元のページ  ../index.html#47

このブックを見る