エルダー2021年6月号
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り、正社員の基本給の60%相当額を基準とした差額が損害として認定されています。前号で紹介した賞与支給に関するメトロコマース事件および大阪医科薬科大学事件(いずれも最高裁令和2年10月13日判決)が、賞与の支給が業績に連動させていないことを考慮して合理性を認めたことと逆に、基本給との連動に重点を置いて判断しており、賞与だからといって必ずしも緩やかな審査となるわ競業避止義務について1多くの就業規則において、「在籍中および退職後においても、当社と競業する企業に就職し、または自ら会社と競業する事業を行っけではないと考えられます。この裁判例が示した60%という基準で統一されるとはかぎりませんが、定年後再雇用において賃金を減額するにあたって、60%を下回るような条件を提示することは、高年齢者雇用確保措置の実施および運用に関する指針における「合理的な裁量の範囲」を超えるという評価にはつながりやすいと考えられます。てはならない」といった規定を定め、競業避止義務を従業員に負担させています。入社時や退職時の誓約書を取得する際にも、これらと類似する内容を定めて、労働者に競業避止義務を負担させることも多いでしょう。一方で、これらの規定に対して、裁判所は有効性を厳しく評価しており、必ずしも有効に機能するとはかぎりません。その背景には、競業避止義務を負担させることは、労働により得た知識や経験を活かすこと自体を制限するもので、労働者の職業選択の自由を大きく制約するという評価があります。例えば、東京地裁平成20年11月18日判決では、「一般に、従業員が退職後に同種業務に就くことを禁止することは、退職した従業員は、在職中に得た知識・経験等を生かして新たな職に就いて生活していかざるを得ないのが通常であるから、職業選択の自由に対して大きな制約となり、退職後の生活を脅かすことにもなりかねない。したがって、形式的に競業禁止特約を結んだからといって、当然にその文言どおりの効力が認められるものではない。競業禁止によって守られる利益の性質や特約を締結した従業員の地位、代償措置の有無等を考慮し、禁止行為の範囲や禁止期間が適切に限定されているかを考慮した上で、競業避止義務が認められるか否かが決せられるというべきである」と判断し、文言通りに効力を認めないことを端的に示しています。このような観点から、競業避止義務に関しては、①企業が守るべき利益の具体化(営業秘密やそれにともなうノウハウなど)、②従業員の地位が高いか、③禁止行為の範囲が具体的か、広範すぎないか、④競業避止義務の競業避止義務の設定については、ケースバイケースで判断が分かれることも多く、必ずしも、有効に機能するとはかぎりません。しかしながら、在籍中に営業秘密の持ち出しや積極的な勧誘行為が認められる場合には、解雇処分が有効となることがあります。A2021.646競業避止義務と引き抜き行為を防止するための留意点について知りたい就業規則に、在籍中および退職後の競業避止義務を定めています。在籍中の従業員が、独立を画策して、顧客名簿の持ち出しと当社の従業員を勧誘しているようなのですが、どのように対応すべきでしょうか。Q2

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