エルダー2021年8月号
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特集生涯現役時代の“学び”を考えるエルダー9勉強は丸暗記やテクニックよりも学ぶ動機と背景まで知る姿勢が大切―内閣府の調査をみても、学び直しに意欲のある人は多いものの、実際には、なかなかリカレント教育に入っていけないという現実があります。この阻害要因は何でしょうか。高橋 そもそも環境が大きいと思います。ある国際調査では、OECD(経済協力開発機構)加盟国など世界の主要国と比べて、ホワイトカラーが自分自身のスキルアップに使う時間とお金は、日本が一番低い。そもそも周りがやっていないから、自分もやってこなかったという部分もあります。加えて、日本は三つの無限定性がベースなので、自己投資しても会社はそれを活かしてくれません。欧米や中国などでは、自腹でMBAや何かの学位を取ると、それによって給料は上がるし、活かすことが可能なわけです。ところが日本の場合は、ディグリー(学位)や専門性を評価しないで、会社のいう通りに動いてくれることを評価してきたので、本人たちもやる気が起きなかったと、とても感じます。もう一つ大きいのは、日本の学校教育の問題だと思います。大学や大学院の入学者に占める社会人経験者の割合が日本では圧倒的に少ない。大学にかかわっていて、こんなことをいうのは何ですが、よほど日本の学校教育は面白くなかったか、あるいは役に立たなかったということですね。日本では、教育や資格制度も丸暗記主義で、テクニックに頼って、そのものの意味を考えることを否定してきました。このことが日本人のリカレント教育にすごくマイナスの影響を与えていると感じています。大事なのは、勉強する動機とどこまで深く背景まで含めて学んでいけるか、そしてそれがどれだけ持続して頭の中に残っているか。これらは動機に大きく左右されます。結局、深く長く効果のある学びをやっている人は、勉強自体の中身に興味があるから勉強する。この学びが、これからの自分の仕事や人生に大事だということが腹落ちしていることも重要です。もう一つは、「これだけやると確実にこうなる」というように自分の能力向上が可視化できることです。いま、ミドルやシニアで、何か勉強しなくてはという危機感を持っている人が多いのですが、何をどうしたらよいかわからない、学び方がわからない。そうすると、リスキリングみたいなイメージになってしまいます。表面的なテクニックの勉強で対応しようということですね。それも、最終場面では必要になってくるかもしれませんが、その前段階の学びの深さが、ちゃんとみなさんに理解されていないと感じます。独学から始めて「自論」をつくり他人と議論して一生モノの「背骨」を―学び直しに一歩ふみ出す動機づけという点でいうと、それが役に立つかどうか、なかなか自分では考えられない人が多いと思います。いままで受けてきた先生や先輩などからのタテ型の教育と、自律的なヨコ展開の経験や学びの幅を組み合わせることができればよいのですが、なかなかむずかしいと思います。どうやってうまくそれを結びつけたらよいのでしょうか。高橋 まさに、タテとヨコの考え方は、50年も前に社会人類学者の中根千枝さんが『タテ社会の人間関係』で指摘している重要な概念です。日本は世界の主要国のなかでも極端なタテ型社会で、多少変わったとはいえ基本はまったく変わっていないと思います。だから、教育も上から下にという伝承になってしまいます。もちろんそれも必要ですが、そればかりに頼るとイノベーションは起きません。先生や偉い人に習うというのではなく、まず自分で調べてみればよいのです。スタートは独学ですね。インターネットの普及など、独学の環境は整っています。そのうえで大事なのは、自分はどう思うのかという「自論」をつくることです。それだけだと凝り固まってしまうので、そこでヨコの展開

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