エルダー2021年8月号
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2021.810として、自論をお互いに発表して意見をいい合う。問題意識を持っている人たち同士が自論をぶつけ合って議論し合うことで、本当の学びになっていくのです。このステップがいわゆるヨコの学びの典型で、これを会社のなかで増やせばよいと思います。本を読むことが学びのきっかけにもなりますが、未来予想本やノウハウ本を手に取ってはいけません。最初はまず、歴史や社会科学を含めた科学を勉強して、そこで自論を積み上げていく訓練をするべきです。どんな分野でも、自分の興味が持てるものを一つ見つけ出してください。それが「キャリアの背骨」と呼べる一生モノになります。その次のステップで、ちゃんと自分で勉強できる能力をつけるために、ベースとなるリベラルアーツの学びを普段から積み重ねることが重要です。方向性が定まってから、必要なテクニックについて短時間でリスキリングすればいいわけです。どうしてそうなるのか、その背景は何なのかを考えることが重要なので、効率よく学ぼうとしてはいけません。学びが引き出しになるかどうかは、すべては深く学ぶことができるかどうかだと思います。すぐに問いへの解が見つからなくても、常に考えてその気持ちを持っていると、どこかで違う刺激を受けたときに「ああそうか」、「そういうことだ」と納得することがあります。そのような経験をすることが重要です。―そのように深掘りした学びがあれば、レジリエンス(困難に対応する力)も、おのずと身についてくるということですね。高橋 主体性の背骨がない柔軟な対応だけでは、意味がありません。レジリエンスはキャリアコンピテンシーに置き換えて考えてもよいと思います。変化の激しい時代に、自分自身のキャリアを自分で切り開いていく能力です。自分のスキルが陳腐化しても、また新しくゼロから始めるのではなくて、その下の深い学びで蓄えた引き出しが基盤として役に立つ。その底の部分を時間とともに積み上げていけるかどうかが問われていて、それがレジリエンスになる。目の前の仕事を主体的にやるという思考や行動と人間関係に布石や投資を社内外を含めてやること、最後に自分自身で勉強を主体的にしていくこと。この三つがキャリアコンピテンシーそのものです。まずは従業員への投資と教育から必要なのは自信と一歩をふみ出す場―企業にとって、学び直しはどのような位置づけになるのでしょうか。企業の具体的な取組みを含めてどのように考えればよいのでしょうか。高橋 企業にとってはまず、キャリア自律を進めるための教育を行うことが必要です。それは従業員に対する福利厚生でもなければ、無責任に放り出すことでもありません。これまで三つの無限定性で自律を妨げられてきたのに、「明日から自己責任でやれ」というのでは、それこそ無責任です。企業は、きちんとお金をかけて、キャリア自律のための教育を行う必要があります。企業として、こういうキャリア自律を推進するということを、トップから明確に示し、会社もこれだけの投資をするから、個人も自己投資をしてくれと伝えるべきです。キャリア自律というのは、会社と個人のプロフェッショナルとしての相互コミットだということを明確に伝えてほしいと思います。会社としては、これがすべてのスタートになります。ミドルやシニアは、キャリア自律がそもそも必要だといわれていても、自信がなく、どうしたらよいかわからない。この段階で悩んでいる人たちは、自己評価の低い人も少なくありません。自身の強みに気づかせ、一歩ふみ出すための場や研修が必要です。年代別にいろいろなアプローチを組み合わせていく必要があるでしょう。キャリアコンサルタントの役割も、対応する年代によって違ってくると思います。

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