エルダー2021年8月号
16/68

2021.814もの」と考えている鈴木会長にとって、社員が大学の講義で理論的な考えを学ぶという機会を提供することは、自然な流れであったようだ。2020年4月からサザキャンパスカフェプログラムに参加している受講生からは次のような感想が届いている。「社会的、文化的な男女の性別・ジェンダーについて、社会が考えるべき問題を学んでいます。ジェンダー問題に対して学生の意見を聞き、彼らの意識の高さを感じました。世界と比べて日本はジェンダーギャップ、いわゆる男女格差が根強く、こうした日本のジェンダー平等の遅れに対して学生が特に敏感であることが印象的でした」(30代男性・店舗事業部係長)「これからは世界各国の歴史や文化を学んだお客さまや取引先とコミュニケーションをとることが増え、店舗の従業員でも外国人の方と接することが増えてくるので、そうしたお客さまに対して最低限のマナーを学ぶことの重要性について考えさせられました」(20代女性・店舗事業部主任)「日本では特に男女の貧困差や学歴での判断により格差が起きていて、ワーク・ライフ・バランス社会が働き方改革につながると考えます。会社に活かせる部分においては、雇用戦力を強め、多様な働き方が選択できること、ダイバーシティの意味と、会社の在り方を学びました」(40代女性・店舗事業部主任)鈴木会長は受講生の活き活きした様子を目の当たりにし、リカレント教育の効果について「思った以上に、大学での学びが社員に響いていることに驚いています。社員に生きがいを持って働いてもらうにはどうしたらよいか、よりいっそう人事面で考えていかなければならないと思いました」と、新しい課題を設定していた。潜在能力と技術向上のため社員研修に注力同社では、人材育成は高品質のコーヒーづくりに欠かせないと考え、サザキャンパスカフェプログラム以外にも社員研修に力を入れてきた。最たるものはコロンビア農園での現地研修である。コロンビアの直営農園において栽培品種の選択、栽培条件の整備、加工など、あるいは高級品種の栽培、品種改良や、接つぎ木による品質の向上などを実施しているが、この現場に社員数十人を派遣し、自分たちの感覚でコーヒーの品質をたしかめている。コロンビア研修には1回数千万円の予算がかかるものの、社員がコーヒー栽培の現場を見る機会は、同業他社であっても多くはないからこそ価値があると考え、継続して実施している。また、日本スペシャルティコーヒー協会が開催するバリスタ競技会「ジャパン・バリスタ・チャンピオンシップ」にも毎年参加しており、直近の3回の大会においてサザコーヒーの社員から毎年3人が上位入賞を果たしている。一社で3人の入賞は異例であり、同社の人材育成が実を結び、社員の高い抽出技術が認められたことにほかならない。コロンビア研修など採算度外視ともいえる研修費は大きな負担であるが、社員のノウハウとモチベーションを高めると同時に、潜在能力の向上につながっている。セカンドキャリアを豊かにこうした研修や学び直しは、知識を身につけるだけでなく、考え方、ものの見方や切り取り方など、これまでにない思考方法を身につけることにつながり、それがいまの仕事に影響を与え、大きく見ればセカンドキャリアを豊かにすることにもつながる。セカンドキャリアにおいても継続して雇用したい企業に欠かせない人材の輩出は、現役社員への学びの提供によるところが大きいのかもしれない。

元のページ  ../index.html#16

このブックを見る