エルダー2021年8月号
18/68

2021.816のキャリア形成を積極的に支援しているが、その背景には2016(平成28)年に行った働き方の見直しがあった。2016年時点では「働き方改革」というのはまだ広まっていなかったが、同社では働き盛りの40代以降の社員に訪れるだろう介護の問題やさまざまなバックグラウンドを持つ社員の働き方の多様化、優秀な人材確保などの課題に対して、長期戦略としての働き方の見直しを決断し、「制度」、「キャリアオーナーシップ」、「スキルレベルの向上」という三つの柱をもとにさまざまな施策を展開していった。「終身雇用といった日本型雇用慣行の企業と違うところは、当社では定年退職まで自分の椅子が安閑と存在し続けるとは、だれも思っていないことです。また、40代、50代になればそれなりの役職が約束されているということもありません。一方で、ビジネスが加速度的に変化し複雑性を増す社会において、一つの専門性や限定的な経験だけでは、個人や組織も対応しきれなくなっていること、またグローバル化や長寿化するなかで個人のライフステージや組織を構成する社員も多様化していることから、2016年に『WOW(Ways of Working)!プロジェクト』を立ち上げ、それ以来社をあげて働き方改革を推進してきました」と前田敦あつ子こ人事本部長は当時をふり返る。『WOW!プロジェクト』では「キャリアオーナーシップ」をキーワードに、人事本部が全国の支店や営業所でワークショップを開催。社員自身がキャリア開発の先導者であること、個人の持続的成長と変化への対応が求められること、そしてキャリアは「アップ」するだけでなく「シフト」やときには「ダウン」という縦横斜めの選択肢があること、それぞれの選択肢を選ぶ際は給与や職場環境などの変化もあることをはっきり伝えていった。「かなり、ストレートなセッションをしたので、社員の転職を誘発し、人材流出につながるのではないかというリスクもありました。それでも社員がキャリアオーナーシップを持って自身の生産性を日々向上させ、パフォーマンスを最大化することが重要であると考え、2016年から大きく一歩ふみ出したわけです。折りしも2017年から『働き方改革』が推進されるようになりましたが、1年早く、まさに時代を先駆けた当社の取組みでした」と、前田人事本部長は胸を張る。多様なニーズに応えるプログラム越境学習で自己能力を研鑽同社は、社内の活性化と積極的に挑戦する組織風土を醸成することを目的として、2018年から部署を問わずオープンポジションを社内共有し、社員からの応募を継続的に受けつけているが、過去2年の社内公募は延べ230ポジション、応募者総数は188人に上っている。さらに2019年からは、管理職登用を原則公募制にするなど、社員公募による社内のキャリア開発の機会拡大に加えて、社員が自らキャリアを意思決定していくための情報を可能なかぎりオープンにしてきた。また、社員のラーニングオーナーシップ(主体的に学ぶ意識)を支援するために、2019年から導入した社員の手あげ制による応募型研修プログラムのなかでは、キャリア形成におけるライフステージの影響を考慮し、30代、40代と各年代を対象にしたキャリアワークショップを展開した。そして、40代を対象にしたワークショップ参加者から希望者を募り、『キャリア越境学習プログラム』を実施した。これは、所属外の組織で経営課題の抽出や改善提案に取り組むプログラムで、ワークショップで醸成した意識を、行動変容につなげるための仕掛けとして導入したものである。「『キャリア越境学習プログラム』は定員12人としていたのですが、予想以上の希望があり、

元のページ  ../index.html#18

このブックを見る