エルダー2021年8月号
20/68

2021.818いったときの対策はどのようになっているのだろうか。前田人事本部長は次のように指摘する。「当社では、多様な働き方を実現し優秀な人材が活き活きと働き続けられるような環境づくりを推進しており、シニア世代だけにかぎった施策を現状は展開していません。また、アメリカの本社ではリタイアメントエイジ(定年)がありませんから、自分でライフプランを立てれば何歳までも働けるのです。日本法人である当社でも年齢や性別といった属性に関係なく人材を評価する文化が根づいており、年齢による差別は一切ありません。シニア層に共通するのは『右上がりの世代』、つまり勝ち続けてきた人たちですから、ステップダウンへのシフトは負けることと同じだという感覚があると思います。いま自分がいるところとは違う場所へ飛び出す勇気がシニア世代にも必要であり、自分に何を求められているのかという発想を持っていないと、独りよがりになってしまうのではないかと思います」加えて、前田人事本部長によれば、たとえ自分のいまがよくても世の中は絶えず変わっていくのだから、自分が止まったままでいることは劣化にほかならないと手厳しい。前田人事本部長やファムさんたちは「いまがいい」という社員には、もし、1年後のいまは変わっていると気づいたら手遅れにならないように変化は必要であることをくり返し伝えているという。「何をしたいかというよりも、何を期待されているのか自分への期待値を把握することが大切であり、シニア世代にはとりわけその発想が必要であると考えています」と前田人事本部長は強調する。ファムさんは「私はいろいろな視点から自分のキャリアを見つめて、ふり返ってみるということがとても重要ではないかと思い、社員がいろいろな角度から自分のキャリアを考えてもらえるようなツールやイベントを企画し、社内に配信しています。例えば、中長期的な視点で上司と何を話したらよいのかわからないという人のために、動画を作成しました。また、キャリア上の悩みを感じている人を対象に定期的にキャリアニュースを配信しています。社員一人ひとりがオーナーシップを持ち続けることの大切さを発信しようと、いろいろな角度から施策を打っているところです」と、人事本部としての真摯な取組みについて説明した。キャリアの多様化に向けオンラインでの〝越境〟に対応今回のコロナ禍はビジネスの世界において多くのマイナス要因を生み出したが、同社では「応用力を試されたような気がする」と、前向きにとらえている。人事本部としては継続してこれまでと同じことに取り組むのではなく、より高い次元で施策を行うことを最大の課題に掲げる。コロナ禍を経て、同社ではリモートワークを標準化するとともに、リモートとオンサイトを活用するハイブリッドな働き方にシフトした。キャリアの多様化は一層進むことが予測されるなか、昨年はコロナ禍で一時止まったものの、今後はオンラインでの『キャリア越境学習プログラム』の再開を予定しており、形を考えながら継続して来年以降も実施していく。常に時代を先駆けてきた同社の飽くなき挑戦が続く。

元のページ  ../index.html#20

このブックを見る