エルダー2021年8月号
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2021.822おいて、『井の中の蛙』であるよりは、他業種、他社の方とかかわりを持つことは、今後の生き方のヒントにもなるのではないかと思います」慶應MCCでは、講師との対話、参加者同士の対話を重要と位置づけており、自らの考えを話し、ほかの人の考えを知り、学問として理論的に体系立てて学ぶことから、「長年同じ業界、同じ会社に在籍して狭くなっていた視野が広がり、自分の考え方が変容したことで、自分の会社が好きになった」という人もいるという。「アメリカの社会学者のマーク・グラノヴェターが、家族や同僚を『強い紐ちゅう帯たい』、週に1回しか会わないような、例えば慶應MCCのクラスメートのような関係を『弱い紐帯』とくくり、新たなキャリアを切り拓くために有益な情報や助言は、職場や家族、親しい友人からではなく、交流範囲の辺境に位置する異業種、他社のような『弱い紐帯』の人々から得られるという論を展開しています。慶應MCCで顔を合わせるクラスメートはまさに弱い紐帯であり、同じように働きながら学ぶ者同士、キャリアに関することなど深い話ができるようです。なかには人生の先輩として目ざしたいと思うロールモデルに出会えたという人もいます」(保谷さん)プログラムが終了した後も、自主的な勉強会を行い、交流会や読書会を開催したり、クラスメートの新規事業の立ち上げに参画したり、協力したりすることもあるとのこと。このようにつちかったネットワークやコミュニティが継続していく。学びを通じた出会いが、次のキャリアに及ぼす影響は決して小さくはないようだ。ミドル世代が「学び続ける場」を企業が提供40〜50代は人生の折り返し地点であり、多くの人が仕事やキャリアに対する考え方・価値観の変化を経験するといわれる。昇進・昇格のような出世を志向する意識に変化が見られるのが40代半ばであり、このころから社会貢献であったり、仕事における成長であったり、社会に対する意義や自分にとってのやりがいにキャリア意識が変化していく人がいる。同キャンパスには次のような人がいるという。「開設初期のころから、長年学ばれている方がいらっしゃいます。40代ではビジネス・経営プログラムを学ばれ、50代半ばになるとagoraで歴史や心理学のプログラムを選択し、生き方について学ばれていました。60歳で定年を迎えられ、いまは出向先で活躍されています。会社で求められる変化にしなやかに対応されている様子が印象的でした。その方は『40代から学んできたことが、いまの基盤になっている』とおっしゃっていました」(保谷さん)40〜50代の時期にいかに自身のキャリア観を身につけることができるか、キャリアに対する考え方を見つめ直す機会を持てるかが、重要であることを示唆している。慶應義塾には「半はん学がく半はん教きょう」という理念がある。教える者と学ぶ者との立場を定めず、先に学んだ者が後で学ぼうとする者を教えるという考え方だ。「40~50代になっても知らないことを知り、探求したいことを探求し、一生を通して、知らないことを好奇心を持って学んでいくことは必要だと思います。60代、70代になっても知らないことを知ることができます。いくつになっても学ぼうとする意欲と姿勢が、いつまでも若々しく活躍できる要因になるのではないでしょうか」(保谷さん)。40~50代の学びとは、キャリアの棚卸しや強みの発見につながり、仕事の社会的な意義や仕事に対する自分にとってのやりがいを見つめ直す機会となる。特に一人での学びでなく、他者との学び合いによってそれは促進されるようだ。社員にとって望ましいセカンドキャリアの働き方とは何かを考えるきっかけとなる「場」を提供することも、企業が取り組むべき一つの試みといえるかもしれない。

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