エルダー2021年8月号
28/68

2021.826らへのヒアリングから始めた。米の生産者をはじめ、類似する非営利団体や大口の顧客らから、山村塾の取組みについて印象や率直な思いをていねいに聞き取った。さらに、サポーターを続けている会員だけでなく、プロジェクトを途中で退会してしまった人、未加入だが取組みに興味を持っている人たち計241人にも、独自のアンケート調査を実施。NPO当事者ではない第三者的な立場を最大限に活かしながら、会員の属性や退会した理由といったあらゆる生の声を収集して、数値やデータでNPOの現状を可視化した。NPO側と重ねたオンラインの打合せは25回以上。感染症対策に留意しながら現地で生産者との合宿も実施して、最終的に仮想空間やSNSを活用した情報発信、会員同士が集うオンラインコミュニティ形成など、コロナ禍の現状もふまえた視点での提案にこぎつけた。活かされた組織マネジメント力今後の複業や社外活動に大きな手応え久保山さんが今回参画したプロボノプロジェクトメンバーは、同じパナソニックグループの所属だったが、互いに初対面であり、年齢や職位、仕事内容も異なる人たちばかり。チームのまとめ役であるプロジェクトマネージャーをになった久保山さんは「年長者としてミーティングやプロジェクトの円滑な管理進行に徹しました。口下手な人でも意見を出しやすいように心がけたり、特定の人に仕事が偏らないように役割を割りふったりしました」とふり返る。久保山さんは1990年に松下電工株式会社(現・パナソニック株式会社)に入社し、海外部門での営業・宣伝や新規事業創出の部署など企画畑を中心にキャリアを歩んだ。その後は地元である福岡県に戻り、グループ会社である住宅設備のショールーム9事業所を束ねる九州地区責任者として、スタッフ計100人ほどの陣頭指揮をとってきた。今回のプロボノでは「チームをまとめながら納期までに成果を出していく力が活かせたと思います」と久保山さんは語る。山村塾でのプロボノは今年2月に終了して数カ月が経つが、久保山さんはNPOの代表と現在も連絡を取り合い、NPOが運営するホームページのリニューアルを含めPR戦略について相談に乗っている。実は、久保山さんは20代のころから非営利組織の可能性やその経営に興味があったものの、「若いときは社内での昇進ばかりを気にしていました」と打ち明ける。今回のプロボノを通じて「非営利組織で社会的なやりがいや達成感をダイレクトに感じるよい機会になりました。キャリアを複線化させながら、できるだけ視野を広く社外活動をしていきたい。自分でNPOをつくることも考えています」と、漠然としていた定年後の働き方やキャリアがイメージできたようだ。同社が2020年度に実施した社内アンケートによると、プロボノを実践した従業員は「これまでの経験、スキルを活かして仕事の幅を広げたい」、「今後のキャリアのあり方を考えるきっかけになった」、「プロボノを通じて仕事への意欲が高まった」と約70%が回答。久保山さんと同様に、プロボノが自律したキャリア形成に好影響を与えていることがわかっている。一人でも多くの従業員に参加してほしいと、近年は支援期間の短い1日のみの単発イベントや1泊2日で完結する短期集中型プログラムなども導入している。コロナ禍という時勢を反映して「在宅やオンラインを中心にプロボノにかかわりたい」という声も急増していることから、今後はプログラムに工夫を凝らしながら参加できる従業員のすそ野を広げていく方針だ。「大人の社会科見学」や「大人の部活動」と表現されることもあるプロボノ。そのカジュアルな言葉とは裏腹に、NPOで自身のスキルや経験を本格的に活かす体験は中高年層を刺激し、今後のキャリアビジョンを検討するうえで新たな生き方を見出す機会になりそうだ。

元のページ  ../index.html#28

このブックを見る