エルダー2021年8月号
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2021.82作家・国文学者 林 望さん夫が会社に行き、妻が家で家事をするという価値観があたり前のなかで生きてきたわけですが、夫が会社に行かないのであれば、妻からすれば家事の負担も平等でないとおかしい。ところが夫は「家事は妻の仕事」だと思っている。考え方がまったく異なるので、関係がギクシャクしてしまうのです。 また、これまで年功序列の組織のなかで生きてきたので、年齢によるヒエラルキー※をそのまま引きずり、若い人たちに対して急に横柄な態度をとる人も少なくありません。私は昔から年齢より若く見られるのですが、なかには外見だけで私のことを年下だと思って、横柄な態度になる人がいます。例えば、会社の社長さんが人を介してぜひお話をおうかがいしたいといってくることがあります。いざ会ってみると横柄な人もいて、これでは組織の外でのよい人間関係を築くことはできません。―定年後の暮らしや生き方を豊かにするた―昨年12月に定年後の生き方を指南する『定年後の作法』を出版されました。執筆の動機について教えてください。林 一昨年満70歳になり、古希というのが一つのきっかけです。昔は人生50年といわれましたが、70歳になると余生のこと、自分の人生のしまい方を考えないといけません。高齢社会のなかで自分の立ち位置からこうした本を書いておいてもよいのではないかと思ったのです。―多くの会社員が定年後は長年過ごした組織を離れ、個人として生きていくことになります。しかし、家庭や地域に戻っても新たなスタートを切れずに苦労している人も多いようです。林 定年後に組織人から個人に移行するのはたいへんむずかしいことです。失敗している人も少なくないのではないでしょうか。よく考えると、会社依存の生活自体がそもそもおかしいのですが、定年後は依存対象が会社から家族に変わります。いまの高齢者世代は、めにはどうすればよいでしょうか。林 組織を離れた人が受け入れなくてはいけない大きな変化は、個人の「個」、そして孤独・孤立の「孤」の生活です。まず孤独・孤立を恐れないという覚悟を決めることです。そのうえで個(孤)の生活のなかでは常に「自省心」とそれに基づく「自制心」の両方が大切です。 人間には「感じの良い人」と「感じの悪い人」の二種類しかおらず、その中間はいないというのが私の持論です。感じの悪い人とは、自己中心的な人、やたらと上から目線で偉そうにものをいう人、態度が横柄な人です。一方、感じの良い人とは、年下に対しても非常に謙虚でていねいな対応ができる人。20歳年下の人にも、にこやかにやさしい物言いをされる大会社の社長さんにお会いしたことがあります。私も感じの良い人になりたいですし、そういう人とおつき合いしたいと思います。 横柄な態度をとる人は、横柄だという自覚がないので、自ら学ぼうとしないし、「偉い自分が教えてやっているんだ」という態度だから、人からも学ぼうとしません。でもいつも謙虚で穏やかな姿勢で接する人は「これはまずかったな」と自省し、若い人に学ぼうと思う。常に学んでいるからますます感じの良「組織人から個人へ」という立場の変化「孤独・孤立」を恐れない覚悟を※ ヒエラルキー……階層、階級制

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