エルダー2021年8月号
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ねられており、過半数労働組合等の同意を得て基準を設定することが望ましいとされています(「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」令和2年厚生労働省告示第351号)。70歳までの就業機会確保の努力義務について265歳から70歳までの就業機会の確保については、制度実現に向けた努力を尽くす必要があります。また、努力義務であるからといって、65歳以降の継続雇用がいつでも終了できるというわけではなく、労働契約法との関係で雇止めが許容されない場合もありますので、注意が必要です。最近の裁判例ですが、65歳定年制を採用している大学において、雇入れ時の説明時に、定年が70歳であると伝えており、定年退職後に適用される再雇用規程や内規などに1年ごとの更新にて、最大で満70歳まで更新する旨定められていた事案において、65歳以降の継続雇用が争いになりました(奈良地裁令和2年7月21日判決)。高年法の定める努力義務と一見相違する争点であると感じられるかもしれませんが、このような結論を導いているのは労働契約法19条の適用が問題となっているからであり、高年法自体の法的な効果ではありません。労働契約法19条は、一定の事由が存在するときには、客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないかぎりは、契約満了を理由として労働契約を終了させることはできず、従前と同様の内容で労働契約を成立させる効果を有しています。一定の事由とは、①期間の定めのない契約と社会通念上同視できるとき、または、②更新されるものと期待することについて合理的な理由があるときのいずれかに該当することを意味しています。この規定が適用されるのは定年までに限定されているわけではなく、定年後の再雇用などにおいても適用されることがあります。同裁判例では、就業規則上の定年は65歳とされていましたが、当初の労働契約の成立時においては定年が70歳である旨の説明がなされており、その認識を払拭することなく、65歳の定年退職後に有期労働契約が締結され、その後も更新されていたことなどから、更新を期待する合理的な理由があるものと判断されており、雇止めには、客観的かつ合理的な理由および社会通念上の相当性が必要と判断されています。このような判断がなされれば、たとえ、65歳を超えていた場合であっても、70歳までの雇用の期待を理由として、客観的かつ合理的な理由および社会通念上の相当性がないかぎりは、雇用を継続する義務が生じることになります。ほかにも、社会福祉法人の施設長という管理職としての立場の事例でも、定年後の雇用延長が争点になったものがあります(東京地裁立川支部令和2年3月13日判決)。事案の概要は、以下の通りです。就業規則において、65歳定年制を採用しつつ、例外的に法人が必要と認める場合に延長することができると定められていました。65歳の定年を超えて勤務を継続していたところ、理事会により今後の雇用継続についての承認が得られなかったことから、雇用契約の終了が争いになりました。裁判所は、法人が必要と認める場合に延長する例外規定であることから、理事会による決議が条件となると判断しつつ、承認の手続きが行われないまま雇用が継続されていたことから雇用契約が黙示の更新がなされ、雇用契約を終了させるためには解雇の意思表示や解約の申し入れが必要であると判断されました。たとえ、定年後における再雇用が制度化されていない場合であっても、定年後の再雇用における説明の内容、定年後における継続雇用の実績、更新に必要な手続きや審査の履践(形骸化していないか)などの状況に応じて、定年後の再雇用が実質的には義務づけられることもありますので、有期労働契約の更新時と同様に、定年後再雇用においてもていねいな手続きや説明を心がける必要があるでしょう。エルダー45知っておきたい労働法AA&&Q

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