エルダー2021年8月号
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②精神的な攻撃には、さまざまな言動が含まれるため、身体的な攻撃ほど単純ではありません。なぜその言動を行う必要があったのかという事情をふまえて判断することが重要です。例えば、遅刻などのルール違反を再三注意しても改善されないときに一定程度強く注意することは許容されると整理されています。③人間関係からの切り離しは、わかりやすくいえば職場内での「いじめ」です。無視や冷笑などの態度などが典型例でしょう。身体的な攻撃と同様、必要性が認められにくい類型といえます。新規採用労働者の研修を目的として、別室で教育を実施することなどは、研修などの目的が明確であることから該当しないと整理されています。④過大な要求や⑤過小な要求は、業務における指示や命令等を含むため、必要性の程度については具体的に検討する必要があります。育成や能力に応じて業務量を調整することは、該当しないと考えられています。⑥個の侵害とは、プライバシー侵害といえばイメージしやすいかもしれません。こちらも必要性が認められにくい類型といえます。労働者への配慮を目的とした家族状況のヒアリングや病歴なども本人の同意を得て業務上の配慮のために情報を取得することは許容されていますが、基本的には本人の了解を得て行うことを求められることが多いでしょう。近時の裁判例について3ハラスメントに関する最近の裁判例としては以下のようなものがあります。例えば、次期社長候補である取締役が、労働者に対し、繁忙期における休暇取得と誤信して激しい剣幕で怒鳴りつけ、労働者が休暇を返上せざるを得なくなったほか、業務改善を目的として休日に呼び出したうえ、感情的で厳しい口調で改善点をまとめた文書を部下の面前で読み上げたという事例において、そのほかの過重労働と相まって、これらの言動が原因で精神疾患を発症したものと肯定しました(高知地裁令和2年2月28日判決及び高松高裁令和2年12月24日判決)。この事例は、激しい剣幕での怒声や感情的な指導といった精神的攻撃に加えて、休日に呼び出すという義務にないことを要求するという意味で過大要求に該当する行為が重なった事案といえるでしょう。また、部下の面前において行われたことも相当性を欠く結論に至る考慮要素になったものと考えられます。裁判所の認定においても、一般論としては、業務改善などを目的とした業務上の指導の必要性を肯定していますが、それを緊急性がないにもかかわらず休日に行うことや感情的ないい方をすることなどの相当性を否定することで、精神疾患を引き起こすようなパワーハラスメントであると評価しています。精神的攻撃において、基本的に悪質性が高いと評価されやすいのは、人格を非難するような言動や感情的な言動によって行われるケースです。これらの言動は「必要性」が低く、相当なものと許容されにくいでしょう。そのほか、決意書と題する目標設定を自身で行うよう求められたうえ、年始には抱負書と題する書面も提出するよう求められ、遂行不可能なノルマ達成を求められ続けた結果、精神疾患を発症したとして損害賠償を請求した事案があります。この事案においては、決意書や抱負書の記載内容からは強制的に記載を求められた要素が見受けられず、訪問すべき顧客の数値を指示されていたとしても、営業業務として達成が困難な程度のノルマないし業務量を課したものとはいえないとして、業務の割り当てに関して違法であると評価しませんでした(東京地裁令和元年10月29日)。過大要求の一種といえますが、業務内容の必要性と相当性の判断において、少なくとも必要性がまったくないような状況は想定し難く、その相当性が問題になることが多いでしょう。厚生労働省が整理した6類型を把握するのみではなく、類型ごとにみられる必要性や相当性の傾向も知ることで、ハラスメント該当性の判断や調査時にヒアリングすべき事項の整理にも役立つものと思われます。エルダー47知っておきたい労働法AA&&Q

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