エルダー2021年8月号
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エルダー3と呼んでいます。程の良さを保ちつつ、相手に親切に尊敬を持ちあう。友人関係でも同じです。過剰にふみ込んで価値観を押しつけたり、相手に依存しないという程の良さを保つことが、感じの良い人になるための最も大切な条件です。―林先生は、50歳を機に東京藝術大学を退職し、源氏物語の現代語訳に挑まれるなど、活発な執筆活動を続けておられます。組織を離れても長く活躍し続けるために、心がけることは何でしょうか。林 やはり準備が必要です。何をするかを考えてから退職するべきであり、辞めてから考えるのでは遅いのです。そして何事かをやろうとすれば、いい古された言葉ですが、「勉強」と「努力」しかありません。 私は50歳で東京藝術大学を辞めて、10年間を助走期間とし、60歳から『謹訳源氏物語』を書き始めました。原稿用紙で6000枚を書き終えるまでに3年8カ月ほどかかりましたが、並大抵の努力ではありませんでした。努力と勉強を重ねること、勉強すればさらにその先が見えてくるし、次の自分の人生を用意してくれます。 健康であれば、少なくともあと10年は元気で動けます。イギリスのマルコム・グラッドウェルという作家は「1万時間の法則」を提唱しました。「しかるべきレベルに達するには最低1万時間の継続的練習が必要」というものです。これは一つの目安ですが、要するに付け焼き刃では何事もできないということです。知識の獲得は木を育てることに似ています。立派な木を育てようと思ってどんなに一生懸命に水と肥料を与えても、3日で大木になることはありません。長い時間をかけてコツコツと努力と勉強を重ねていく、継続する力が大切だということです。―定年後を含めて何かをやりたいと思っている人は多いと思いますが、やりたいことを見つけるヒントはありますか。い人になっていくのです。ですから、定年後はむしろ遠慮深く進んでいくことが大事です。いい換えると必要以上に他人のテリトリーに立ち入らない、相手の心に深入りする言行を遠慮する。そういった行動の規範を持つことが大切です。 江戸時代の言葉に「程ほどの良さ」というものがあります。夫婦であっても過剰に濃厚密着するのではなく、適切な空間を保つこと、お互いの生き方に過剰にふみ入らないこと。それが夫婦円満の秘訣であり、私は「息いきの間ま」組織を離れても長く活躍するためには「準備」、「勉強」、「努力」が不可欠

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