エルダー2021年9月号
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特集 “働き続ける”ための仕事と介護の両立支援エルダー9出勤していれば問題ないといえるか2介護においては、育児と異なり、両立支援制度を利用しないで通常勤務をしているケースが少なくありません。介護休業や介護休暇の代わりに年次有給休暇(年休)を取り、わざわざ所定外労働免除を申請することなく、自らの裁量で残業調整をして介護に対応しています。そのようにいうと、介護は仕事と両立しやすいと思われるかもしれません。しかし、そうではありません。仕事を休まず、短時間勤務もしないで、普段通りに出勤していても思うように働けないということが介護では起きます。勤務時間外の介護負担が仕事に悪影響を及ぼすことがあるのです。典型は介護疲労の問題です。通常勤務で出退勤ができても、帰宅後や休日の介護を継続的にになうことで心身の疲労が蓄積していくのです。そのような状態で仕事と介護の疲労が二重に蓄積する生活が続けば、体力や集中力の低下は避けられないでしょう。結果として、仕事の能率が低下する可能性があります。好ましくない健康状態で出勤して仕事に従事することを、一般に「プレゼンティーズム」といいますが、介護疲労によるプレゼンティーズムという問題に視野を広げると、仕事と介護の両立は決して容易ではないといえます。特に深夜の介護は睡眠に悪影響を及ぼし、深刻な問題につながるおそれがあります。深夜介護による睡眠不足から仕事中に居眠りをしてしまうことがあります。それが、業務中の居眠り運転による事故、つまり労働災害(労災)をもたらした事例もあります。特に近年は、認知症による昼夜逆転が介護者の睡眠に影響する例が目立ちます。介護疲労は要介護者への暴力や介護者の自殺など痛ましい事件の原因として語られますが、そのような介護生活のなかで、仕事だけは普段通りにできるということはありません。もう一つ、この問題が示唆する重要なポイントは、介護離職をしていなければ問題がないとはいえないことです。介護による健康状態の悪化が就業を困難にし、介護離職につながることはあります。しかし、介護疲労が蓄積し、思わしくない健康状態であっても、多くの介護者は何とか仕事を続けられるように努力します。その努力と格闘の過程で仕事の能率低下という事態を招くのです。つまり、離職には至っていない状態で起きている問題にも目を向ける必要があります。その意味で、介護離職がゼロになっても、仕事と介護の両立困難を抱える介護者がゼロになるわけではないのです。また、介護離職をゼロにするためには、介護疲労が仕事に及ぼす悪影響に留意し、離職に至る健康状態の悪化を未然に防ぐことが重要であるともいえます。しかし、普段通りに出勤していると、その疲労に上司や同僚も気づかないことがあります。特に育児と同じ発想で介護を考えていると、介護者の健康問題を見過ごしてしまうでしょう。育児・介護休業法は育児の発想を介護に応用していると前述しましたが、その根幹にあるのは仕事と家庭の両立を生活時間配分の問題としてとらえる発想です。出勤日や勤務時間に家庭の責任を果たす必要が生じることから、休暇や休業、短時間勤務によって時間調整を行う必要があるという発想です。図表2の白いボックスが示すように、育児・介護休業法における仕事と介護の両立支援制度は、やはり仕事と介護の生活時間配分の観点から設計されています。ですが、介護においては生活時間配分とは別の次元で健康問題が生じます。仕事と介護の時間調整の必要がなくても、勤務時間外の介護負担の蓄積によって心身の疲労が蓄積し、介護者の健康状態が悪化することによって、思うように働けなくなるという問題が生じ得るのです。それが図表2のグレーのボックスです。これらの要因は、育児との関係では問題にされてきませんでした。その意味で

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