エルダー2021年9月号
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2021.926もらうにはどうすればよいか」という視点で課題になっていることに一つずつ手を打ち、両立しやすい環境を整えてきた。中小企業の場合、「〇〇さんはこうしていい」、「△△さんはこうしよう」というように個別対応をすることも考えられるが、そうすると不公平感が生じるので、同社では会社の仕組みとして制度や施策を整備してきた。同社が取り組み始めたころは、世の中ではまだそこまで両立支援に前向きな企業は多くなかったが、「私は作業療法士としてリハビリの仕事をしていました。リハビリの対象の方たちは、手が思うように動かない、一人でお風呂に入れないなど、いろいろな『できない』があります。それに対して、『では、どうしたらよいか』と考えるのがリハビリのプログラムの一つです。経営においても、それと同じ考え方で、『働いてくれる人が困っている。じゃあ、どうしよう』と考えて取り組んできました。私のなかではすごくシンプルなんです。会社の運営においては、働く人の安全性が大事だと思っています。その人が生活のなかで抱えた課題は、会社ができる範囲のことであればなるべく早い段階で解消し、心理的に不安定な状態から安全地帯に持っていってあげるべきです」と雅樂川社長は語る。そのように積極的に取り組んできたことで、よい人材が集まり、従業員のモチベーションや定着率も向上し、会社の成長にも結びついたのだろう。ちなみに、初めに雅樂川社長に介護について相談してきたスタッフは、10年ほど仕事と介護の両立を続け、いまも同社で活き活きと働いている。もちろん、これまでの取組みがすべてうまくいったわけではない。例えば、介護をしている人が自分の時間を持てるようにと、雅樂川社長の発案で、「介護楽しんで休暇」以外にも特別有給休暇を導入したことがある。ところが、「休むと現場がわからなくなるので、来られるときは来たい」という反応が多く、結果的に従業員の了解を得て廃止した。また、当初は、育児や介護をしていない従業員たちから、「どうして私たちばかりに負担がくるのか」と不満の声があがった。「では、どうすればよい?」と聞くと、「旅行に行くために休みがほしい」というので、旅行休暇や費用補助を設けた。その後も、従業員の要望を受けてさまざまな制度を設けた。ただ、そうやって設けた制度のなかにも、あまり使われず、廃止されたものがある。しかし、雅樂川社長は、こうしたトライ・アンド・エラーは無駄なことではないととらえている。「従業員が困っていることに会社が全力で向き合う姿勢が大事なんです。従業員からの声を無視しない、いったんは受けとめる会社であると示すことを心がけています」という。トライ・アンド・エラーをくり返し、よりよい形を模索してきた結果が同社の成長につながっているのだ。雅樂川社長は、これから介護との両立支援策を充実させていきたい企業へのアドバイスとして、以下の3点をあげる。・従業員教育を行い、スケジュールや思い、役割を認識させる・従業員とコミュニケーションを取り、何に困っているかを経営者が聞く(直接聞くのがむずかしければアンケートでも可)・従業員の声を聞いたら、実行しない場合も含め、まずは受けとめたことを伝える雅樂川社長は、介護の考え方やお役立ち情報をYouTubeで発信しているほか、他社の社員教育の講師も積極的に引き受けている。また、他社の活動を支援するためにコンサルティング事業を立ち上げた。「自分のところだけがんばっていても日本の働く環境は変わりませんので、社会全体がよくなるように、ヒントを伝えていければと考えています」と意欲をみせる雅樂川社長。同社の経験や知見がシェアされ、多くの企業の両立支援が進んでいくことを期待したい。

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