エルダー2021年9月号
9/68

エルダー7特集 “働き続ける”ための仕事と介護の両立支援介護は育児と違う1介護離職防止策の柱として、育児・介護休業法は、介護休業を企業に義務づけています。しかし、実際は、多くの介護者が介護休業は取らずに仕事を続けています。反対に、介護休業の必要性とは別の理由で離職する介護者もいます。これまで介護休業の取得者が一人もいない企業で、ある日突然、従業員が介護離職を申し出ることがあります。なぜこのようなことが起きるのでしょうか。育児・介護休業法は、1991(平成3)年制定の育児休業法に介護の規定を加えて1995年に制定されました。介護のための制度は先行してつくられた育児のための制度をひな形にしています。育児休業と同じように、介護にも長期休業が必要だろうという類推のもとに介護休業制度はつくられています。勤務時間短縮等の措置も、もともと育児のためにあった制度です。年5日の介護休暇も、これに先だって子の看護休暇がありました。しかし、介護は育児と似て非なるものです。家族のケアという意味では同じでも、乳幼児のケアと高齢者介護はかなり性質が異なります。そのため、育児と同じ発想でつくられた「仕事と介護の両立支援制度」は、働きながら介護をになう当事者のニーズとしばしば乖かい離りしています。例えば、育児においては産後に子どもを預ける保育サービスを確保できなければ復職することはできません。そのため、子どもが法定の1歳に達するまでに保育所が決まらなかった場合、1歳6カ月さらには2歳まで育児休業(育休)を延長することができます。一方、高齢者介護においては、介護保険制度に基づくサービス(介護保険サービス)の利用開始までに、法総 論定の93日(3カ月)もかかりません。しかし、時間の経過にともない、在宅介護から施設介護への移行、新たな疾患の発症にともなう入院、最期が近づいてきたときのホスピスへの入所など、改めて介護休業を取る必要が複数回生じることがあります。育児の場合は、時間の経過とともに子どもは自立して親の手を離れていきますが、反対に高齢者介護は、時間の経過とともに要介護状態が重くなり、依存を強めていきます。そうした違いを考慮して、2016年改正の育児・介護休業法は、介護開始時(始期)に1回という想定でつくられた介護休業を3回に分けて取得できるようにしました。さらに、育児・介護休業法では、介護の終わりまで所定外労働の免除が認められますが、短時間勤務は義務化されていません。育児においては、3歳未満の子育てのための短時間勤務制度を企業に義務づけています。しかし、介護に介護離職を防止するために独立行政法人労働政策研究・研修機構 主任研究員 池田 心しん豪ごう

元のページ  ../index.html#9

このブックを見る