エルダー2021年10月号
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再雇用時の職務内容の変更の限界について2職務内容を大きく変動させ、これにともない賃金の減額幅を大きくしてもよいのでしょうか。定年後の再雇用のときに、職務内容を変更したことが問題となった裁判例が、名古屋高裁平成28年9月28日判決(トヨタ自動車ほか事件)です。定年を迎える従業員が、これまで従事してきた事務職ではなく、シュレッダー機ごみ袋交換および清掃(シュレッダー作業を除く)、再生紙管理、業務用車掃除、清掃などを業務とする再雇用契約を提示されたという事案です。裁判所は、「事業者においては、…(略)…定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては一定の裁量があるとしても、提示した労働条件が、無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり、社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては、当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであるといわざるを得ない」としたうえで、「高年法の趣旨からすると、被控訴人会社は、控訴人(筆者注:定年を迎えた労働者)に対し、その60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが、両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には、もはや継続雇用の実質を欠いており、むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから、従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り、そのような業務内容を提示することは許されないと解すべきである」などと評価し、事業者の行為を違法と判断しました。この裁判例と類似の判断をしている事件として、福岡高裁平成29年9月7日判決(九州総菜事件)があります。この事件では、定年後再雇用者に対しては、フルタイムから短時間労働への変更を提示したうえで、月収ベースで定年前賃金の25%程度にまで減額される条件となっていました。このような変更に対して、裁判所は、「継続雇用制度についても、これらに準じる程度に、当該定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度、確保されることが前提ないし原則となると解するのが相当であり、このように解することが上記趣旨(高年齢者の65歳までの安定雇用の確保)に合致する」としたうえで、「例外的に、定年退職前のものとの継続性・連続性に欠ける(あるいはそれが乏しい)労働条件の提示が継続雇用制度の下で許容されるためには、同提示を正当化する合理的な理由が存することが必要である」と判断しました。これらの裁判例から共通して受け取れる点として、①賃金額の大幅な減額、②業務内容の大幅な変更は、継続雇用としては連続性・継続性を失わせることになり、違法と判断されることがあるということです。したがって、定年後の再雇用において、正社員の職務から変更をするにあたっても、大幅な変更は許容されない点には注意が必要です。職務内容などの変更における留意点3職務内容や責任の範囲、変更の範囲などを定年にともなって変更する際に、いかなる変更を行うことが適切でしょうか。正社員に求めていた業務のうち、体力や集中力の低下にともない任せることができないような業務を除外したり、異動の可能性を視野に入れる必要がないのであれば配置の変更を行わないようにするといった対応が考えられます。これらの変更は、高齢者であることを背景とした合理的な理由による変更であったり、労働者にとって有利な変更ともなるので、法的にも裁量の範囲内として許容されやすいと考えられます。また、フルタイムから短時間労働への変更は大きな賃金減額をともなうことも多いことから許容されにくいと考えられますが、体力や身体機能の低下などが業務の質に大きく影響するような業務であれば、むしろ短時間労働であっても同種の業務エルダー45知っておきたい労働法AA&&Q

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