エルダー2021年10月号
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エルダー53まずは、再雇用者が定年を迎えてから活躍するまでの四つの段階を解説します。【第1段階 ニュートラルゾーン】定年の節目(ニュートラルゾーン)で再雇用者にさまざまな葛藤が表出します。もっと仕事ができるはずなのにできないもどかしさや周囲に対する遠慮の気持ちなどです。一方、仕事や時間に量的な余裕ができ違ったことにも挑戦してみようというポジティブな心理も見られました。そして再雇用者は契約社員となるため、日本型雇用でいう「メンバーシップ」から外れることになります。そのことを定年後に後から気づくということを吐露した方もいました。こうした複雑な思いと同時に、「自分は非常に恵まれている」といわれる方も多く、会社にふみとどまりたい気持ちも聞かれました。その背景には、社外に出ても現職ほどの処遇を得られるかわからないということなどがあります。ニュートラルゾーンはキャリア心理学のトランジション理論で説明できます。トランジションは「節目」、「過渡期」ともいわれ、「何かが終わるとき↓ニュートラルゾーン↓何かが始まるとき」の3段階があります。ニュートラルゾーン状態から逃げずに自分自身と徹底的に向き合うことで、新たな始まりの準備になるといわれています。インタビュー対象者も複雑な思いを持ちつつ、自身と向き合って新たな準備をしたという実態が確認されました。【第2段階 現状を受け入れ仕事の棚卸を行う】現状を受け入れ仕事の棚卸をするステップです。複雑な思いを抱きながらも、仕事をしていくなかで徐々に現状を受け入れていきます。ポイントは二つあり、一つ目は「仕事の棚卸」です。現役時代の経験や専門知識をどのようにいまの職場で応用できるかを考えることが重要となります。二つ目は「上司とのコミュニケーションによる期待役割の認識」です。上司と公式・非公式での対話を重ね、何を期待されているのかということを自分なりに解釈していきます。再雇用者は遠慮がちな上司の言葉から自分に期待されている役割を推察するのです。こうしたことは、現状を受け入れていく大切なプロセスとなります。活躍している再雇用者は対話を通じて上司と方向性が合っており、いまの環境で自分が受け入れられているという認識を持っていました。上司からも当該再雇用者が周りの同僚から慕われており、再雇用者がいることで助かっているという言葉が聞かれました。こうした環境がベースにあって再雇用者自身も現状を受け入れ、仕事の棚卸が促進されるのです。【第3段階 自己調整する動き】その後は「自己調整する動き」という段階へ移行します。立場の変化が仕事内容や発言、対人関係を自ら調整させていくことを意味します。自己調整には三つあり、一つ目は会議での発言やメール文章の書き方を変えるといった、※6  日本経済団体連合会「中高齢従業員の活躍推進に関するアンケート調査結果」(2015)では「40代~50代層の割合が高い企業が大半を占める」としている※7  パーソル総合研究所「企業のシニア人材マネジメントに関する実態調査」(2020)では、シニア人材について、すでに課題感を持っている企業の割合は49.9%。また、今後、5年以内に課題になると回答した企業の割合は75.8%。従業員規模が大きくなるほど課題感が強くなるとしている ※8  日本経済団体連合会「ホワイトカラー高齢社員の活躍をめぐる現状・課題と取組み」 (2016)図表1 再雇用者が活躍する四つのプロセス自らを受け入れてくれる環境上司と方向が合っている関係性裁量や自由度がある仕事への従事再雇用者に裁量を与えるマネジメント上司の行動2現役世代に貢献する動き継続的な学びプレーヤーとして動く現役世代ではできない仕事を見つけて取り組む現役世代に貢献している実感自己調整する動き遠慮に由来する発言量の調整自分の立場にあわせた仕事量の調整対人関係を狭めていく動き現状を受け入れる現状を受け入れるための諦め責任の軽減への相反する感情再雇用者だからこそできる仕事のアサイン上司の行動3仕事のマッチングや職務の切り出し上司の行動1仕事の棚卸し現役時代の経験や専門知識の振り返り経験からくる今の仕事への自負上司からの期待に対する自分なりの解釈定年後の違和感現役世代への批判的な見方上司のやりづらさへの気づき周囲に対する遠慮の気持ち仕事や時間の量的な余裕処遇低下への違和感現役でないことに気づくニュートラルゾーン 定年会社に踏みとどまりたいまだまだできるという思い多少なりとも満足してるという思い外に出ても通用しないという認識Copyright©株式会社ライフワークス・法政大学大学院 岸田・ 谷口・北川・野村

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