エルダー2021年10月号
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2021.1054特別寄稿70歳就業時代、組織におけるシニア社員の役割創造とは?次に上司の働きが与える影響を解説します。まず「仕事の棚卸」段階での有効な行動は、対話を通して再雇用者(部下)の経験や専門知識を理解し、自部署のなかで仕事を切り出しマッチングすることです。すり合わせで仕事が明確になると、再雇用者にとっては期待役割を受け取りやすく棚卸行動が促進されます。続いて、「自己調整する動き」段階では仕事を指示・依頼する際にネガティブにとられないよう、「あなただからできる仕事です」というように、期待を伝えることが有効です。その方ならではの特性を活かした仕事を依頼することで自己調整する動きが促進され、再雇用者が「現役世代ではできない仕事を見つけて取り組む」契機にもなります。最後に「再雇用者を受け入れる環境づくり」です。再雇用者に対して自由裁量の高い仕事を付与し、あわせて周囲に再雇用者の役割を伝える対応が重要です。こうした上司の働きかけで再雇用者は自分が職場に受け入れられていると感じ、意欲の向上のみならず、「継続的な学びに自ら取り組むこと」や「自ら手を動かす抵抗感の払ふっ拭しょく」にもつながるのです。シニアの役割創造を再現する方向性と方策最後に「再雇用者の役割創造プロセス」をふまえて、役割創造を再現する方向性と方策について提案します。まずは、「シニア社員」へのアプローチ3ステップ(図表2)です。STEP1は「内省機会を通じたキャリア資産の再構築」です。定年・再雇用を受け入れるための「マインドセット」と「仕事の棚卸」を行います。具体的にはキャリア研修やキャリアコンサルティングを通じて再雇用で働くことの意味づけを行うことで、「メンバーシップから外れる」転機への対応を支援します。STEP2は「現役世代に貢献する領域への挑戦」です。STEP1で言語化したことを職場ニーズと擦り合わせ、自己調整する動きを促進します。具体的には上司との面談で貢献の方向性を協力して探っていきます。この対話を通して、シニア社員自身が「職場から頼られる存在になること」への自覚が期待できます。こうしたステップを経て、最終的に「シニア社員個々人が自ら役割を創造する」STEP3に到達します。複数の職場での「現役世代に貢献する動き」を事例共有することで、シニア社員に対して「自分ならどんな役割をつくれるか」のヒントを提供できます。合わせて、シニア社員からアイデアを発現するための「役割創造したシニア社員を承認する制度」、「シニア社員向けの公募制度」も有効です。このような役割創造プロセスを再現するための段階を設定することで、段階毎の目標と打ち手を具体化することができます。次に、「上司と人事」の対応方向性と打ち手※ 9  リクルートワークス研究所「シニア就業意識調査2006」(2006)では、高齢者は「過去の経験や知識」を活かし、評価・承認をされながら働く傾向があり、50代後半で重視し、60代前半でも重視するもの「能力を生かせること・自分のやり方で取り組めること・快適な環境で仕事をすること」と明らかにしている※10  一般財団法人 企業活力研究所「これからのシニア人材の活躍支援の在り方に関する調査研究報告書」(2020)では意欲的に働き続けられる要因としては、「やりたい仕事ができている」ことや「成長を続けられること」、「達成感」など、職務そのもののやりがいが強く影響していた。50代までに獲得したスキルを現在の仕事でも活かせている60代人材の方が現在意欲的に働いている傾向があるとしている発信の仕方を工夫する「コミュニケーション量と質の調整」です。二つ目は「仕事量の調整」を行うことで、できることをすべてやるのではなく、周囲に配慮して仕事を調整することがあげられます。三つ目は「人間関係の調整」です。公の食事会には参加するがそれ以外の飲み会には参加しないなど、同僚との人間関係に少し距離を保つようになります。こうした動きはネガティブなものではなく、周囲との調和を図るための戦略であり、自己調整により「自らを受け入れてくれる環境」が生まれ、再雇用者のモチベーションの安定となって最終段階である「現役世代に貢献する動き」に至ります。【第4段階 現役世代に貢献する動き】最終的に再雇用者は現役世代ではできない仕事に着手します。つまり、現役世代には事業における中核の仕事があり、そうではない仕事を再雇用者自身が見つけていくということです。営業経験がある再雇用者は、短期に成果が出る仕事は現役世代に任せ、成果を出すには長期的な時間が必要で、短期的な評価に結びつきにくい仕事をあえて行うことや、役職経験者で人の成長に関心の高い方がキャリアアドバイザーとして従業員のキャリア支援に従事する例などが確認できました。再雇用者は「緊急度は低いが重要度は高い領域の仕事」に意図的に取り組むことで、現役世代に貢献している実感を得られるのです。

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