エルダー2021年10月号
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2021.1058FOOD日本史にみる長寿食336食文化史研究家● 永山久夫強精食材だったギンナン加藤清きよ正まさとギンナンギンナンは、いうまでもなくイチョウの木の実で、日本にはかなり古い時代に中国から伝わったようです。イチョウは各地に巨木や老樹があり、街路樹や公園、校庭などの木としても親しまれています。現存する城にも多く、これも籠城した場合の備えで、いざとなったら非常食とし、薬用にするためでした。なかでも有名なのが熊本城で、築城した智将の加藤清正(1562-1611)が自らの手で植えたと伝えられるイチョウの老樹があります。このため熊本城は「銀ぎん杏なん城」と呼ばれます。あの神秘的な深い緑色をしたギンナンは、たくさん食べると鼻血が出るほどの強精食材ですが、主成分は40%近く含まれている炭水化物。量的には多くはありませんが、タンパク質や脂質もあります。体の酸化、つまり老化を促進させ、ガン細胞の発生や動脈硬化などの原因となる活性酸素の消去に大きな力を発揮するといわれる三大抗酸化ビタミンのビタミンC、E、それにカロテンも豊富です。そのほかには、疲労回復や頭の回転をよくするというビタミンB1や脳の血行を促進する葉酸、骨を丈夫にするというビタミンK、それに美肌や若返りに役立つ成分であるナイアシンが含まれています。新婚さんにギンナンの贈物イチョウの木は生命力がきわめて強く、落雷や戦火、火事などにあって黒焦げになっても、生き延びている老木がよくあります。そのような強靭な木から生まれたギンナンですから、粒は小さいけれども、食べれば精がつきます。鎮ちん咳がいや去きょ痰たんなどの作用もあるといわれ、昔は国民病とも呼ばれた肺結核の治療にもよく用いられました。また、流行性の風邪が蔓延すると、ギンナンが疫病除けになるといわれ、みんなでよく食べたものです。新婚の夫婦がギンナンを食べる習慣があったのも、子づくり能力を高めるからと伝えられ、土地によっては友人たちが夫婦にギンナンをプレゼントしていたそうです。殻に割れ目をつけ、塩いりするのがベストですが、割れ目をつけてから封筒に入れ、電子レンジで数分温めれば手軽に食べられます。

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