エルダー2021年11月号
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エルダー45ん。それは、現場の作業を熟知しているがゆえに、また、上に立つ者の責任感の強さゆえに、現場の進捗などに支障がでると「早く支障を取り除かなければ」、「解決策がわかっている自分がやる」という気持ちが大きくなり、不安全行動止む無しとなることがあります。しかし、若いころと比べさまざまな心身機能は衰えており、それが原因で被災してしまいます。(3)中堅と熟練作業者の比較熟練作業者ならではの労働災害を明らかにするため、ここでは、一定の実務経験を有し、作業を主体的に進めることができる中堅作業者と熟練作業者の労働災害を比較し、両者の違いをみてみます。厚生労働省ホームページ「職場のあんぜんサイト」に掲載されている休業4日以上死傷災害データ(2015〈平成27〉・2016年分、全数のおよそ4分の1抽出データとされる)を用いて、全産業を対象に、30代と50代の墜落・転落災害を比べてみます。30代と50代を比べる理由は、60代であれば定年・再就職のように働く場所が異なることも労働災害の原因として考慮する必要がありますが、50代であれば、心身機能の低下を主たる原因にとらえてよいのではないかと考えられるからです。墜落・転落災害と心身機能の関係をみると、バランス感覚が低下すると墜落・転落災害は発生しやすくなります。ただ、墜落・転落しても、とっさにうまく動けるなら、例えば、バランスを崩して墜落しそうになっても、とっさに何かにつかまることができれば被災を免れますが、それができないと被災につながります。また、視力の低下も開口部など気づきの遅れにつながり、筋力や柔軟性の低下もバランスを崩すなどの原因につながります。図表1の通り、30代と50代の休業4日以上死傷者数を2015年、2016年の2年合計で比べると、墜落・転落災害は、全体では50代が1・73倍と多く、これを起因物別にみると、トラックが2・11倍、はしご等が1・88倍、建築物・構築物は1・76倍と全体を上回ります。このうちトラック、はしご等は、トラック荷台、はしご、脚立等からの墜落・転落であり、建築物・構築物は、トラック荷受けバース、荷物返却台、コンテナーホームなど、荷さばき場所からの墜落・転落が数多く見受けられます。これらの多くは法的に墜落防護措置を必要としない高さ2mに満たない低所からの墜落です。そこでは、作業者は墜落しないための正しい作業方法が求められます。トラック荷台であれば、あおり※1に乗らない、荷台昇降時は昇降ステップを用いる、昇降ステップがない場合は決して飛び降りない。はしごであれば、はしご※1 あおり……荷台の枠の部分図表1 30代と50代の休業4日以上死傷者数(墜落・転落災害、2015年、2016年)事故の型起因物2015年2016年2年合計30代50代30代50代30代50代年代比較ABCDE=A+CF=B+DF/E墜落・転落トラック152325152316304641211%はしご等134256156290290546188%足場424232357477104%階段・桟橋120193132213252406161%開口部122012192439163%屋根、はり、もや、けた、合掌49413639858094%作業床、歩み板203321354168166%通路62016172237168%建築物・構築物4262377779139176%その他142244141242283486172%合計7191236735128314542519173%出典:厚生労働省ホームページ「職場のあんぜんサイト」労働災害(死傷)データベース高齢社員のための安全職場づくり―エイジフレンドリーな職場をつくる―

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