エルダー2021年11月号
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エルダー47い不安全行動により墜落することが数多く見受けられます。老朽化した屋根の踏み抜きなどは突然墜落しますが、それはバランス感覚やとっさの動きがほとんど関係しないため、トラック荷台、はしご、脚立ほど、高齢者の被災が目立たないといえるのではないでしょうか(図表1の屋根からの墜落・転落災害2年合計は30代の方が多い)。高齢者の墜落・転落災害事例360歳以上の墜落・転落災害事例を紹介します。多くは、いずれも高さ2mに満たない低所からの墜落・転落事例(図表2)です。おわりに(課題解決に向けて)4高齢の熟練作業者は今後も現場の安全確保の要であり続けることはいうまでもありません。ただ、豊富な経験が危険軽視につながり、現場が思ったように進まない場合など、上に立つ者の責任感の強さも相まって、急いで解決しようと不安全行動をともなう解決策が選ばれてしまうおそれがあります。しかし、加齢にともなう心身機能の低下により、とっさにうまく動けないなど被災しやすいため、若いころよりもより慎重な行動が求められます。ただ、安全教育により行動変容を求めても、長年にわたり現場でつちかった経験が教育効果を小さくしてしまいます。今後は、熟練作業者の一層の活躍をうながすため、教育効果の高い安全教育を実践することが重要です。それには、厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」(2020〈令和2〉年3月)に示された高年齢者向けの安全衛生教育が参考になります(図表3)。一方で、熟練作業者の労働災害防止には、心身機能の低下を補うハード対策も重要です。例えば、脚立は天板だけでなく踏みさんに乗っても不安定です。足幅より狭い踏みさんの上に乗ると、足から踏みさんにかかる力の方向と、それに対し踏みさんから出る反力の方向がずれ、それは身体が揺れることを意味します。作業者が安全を確保するうえで、最も大事なものの一つに足元(足場、作業床)がしっかりしていることがあげられますが、脚立上は不安定で、身体を揺らしながら作業が行われています。このため、できれば脚立の使用を控え、踏みさん幅が広く、身体を支える上枠がついた天板に乗ってもよい踏み台(図)のような、より安定した姿勢が保てる用具の使用が望まれます。図表3 エイジフレンドリーガイドラインに示された高年齢労働者向け安全衛生教育のポイント(一部抜粋)・十分な時間をかけ、写真や図、映像等を活用する。・心身機能の低下が労働災害につながることを自覚させる。・自らの心身機能の低下を客観的に認識させる。・わずかな段差等、周りの環境に常に注意を払わせるようにする。図 上枠つき幅広天板の踏み台出典:厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」作業をする場所にあわせて適切な高さのものを使用する。上枠つき幅広天板適切な高さのものを使用する。高齢社員のための安全職場づくり―エイジフレンドリーな職場をつくる―

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