エルダー2021年11月号
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制の合理性は肯定されてきました。高年齢者等の雇用の安定に関する法律(以下、「高齢法」)においても、定年制の廃止以外にも定年延長などの制度による高齢者雇用が許容されていることからも、定年制自体は合理的で有効な制度であると考えられているといえます。ただし、高齢法第8条において、60歳を下回る定年の定めは規制されているため、定年制を定めるにあたっては60歳以上の年齢を設定する必要があり、現在では、高齢法に基づき定年廃止や65歳までの定年引上げを含む65歳までの雇用の確保が企業には義務づけられています。なお、2021(令和3)年4月1日に施行された改正高齢法により、70歳までの定年引上げなどの高年齢者就業確保措置が努力義務となっています。法的性質の側面からは、定年制は、厳密にいうと「定年解雇制」と「定年退職制」の二種類があるともいわれており、前者の場合は、解雇権濫らん用よう法理の適用があると考えられています。したがって、定年解雇制の場合には、定年に達したとしても、その解雇には、客観的かつ合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ、労働契約を終了させることができません(労働契約法第16条)。また、解雇予告通知の規制も適用されることから、定年到達の1カ月前には、解雇の意思表示を行う必要があります(労働基準法第20条)。一方で、定年退職制の場合は、労使双方からの特段の意思表示などなく、定年に達したときに、労働契約が終了することになります。定年制の種類ごとの延長対応方法2定年解雇制を採用している企業において、解雇の意思表示を行わないことで、定年時に労働契約が終了する効果を発生させないことが可能です。使用者の立場からすれば、解雇権濫用により定年にともなう解雇が違法となる余地がある以上、定年のときに解雇しなければならないとすれば、違法な解雇を強制されることにもつながります。そのため、定年解雇制は定年時に労働者を解雇することを義務づけるものではなく、解雇するか否かについては、使用者側に裁量があると考えられます。次に、定年退職制の場合は、双方の特段の意思表示がなく定年のときに労働契約が終了するため、定年解雇制とは異なります。定年制が、就業規則または合意に基づく労働契約の内容であることからすれば、双方の合意に基づき労働契約の内容を変更することは可能でしょう(労働契約法第8条)。定年制については、就業規則に定められている場合の最低基準効との関係においても、例えば60歳に到達したときには労働契約が終了するという条件について延長するということは、定年制自体を適用せずに労働契約を継続することになりますので、就業規則に定める条件よりも優遇された待遇といえるでしょう。したがって、対象となる労働者との合意に基づき定年制の適用を行わずに、労働契約を継続することが、最低基準効に抵触するものではなく、労使間の合意にしたがえば、特定の従業員に定年制を適用せずに継続的に雇用することは可能と考えられます。定年の個別の延長における留意事項3定年制が存在したとしても、解雇の意思表示を控えることや個別の合意に基づき延長することは可能と考えられますが、定年制を適用しないことが一般化しないように留意しておく必要はあります。当初は特定の労働者にかぎろうとしていたところ、いつの間にか多数の労働者に対して定年制を適用しないことが標準的な対応となってしまった場合には、定年制を適用しないことが労使間の慣習となる可能性があります。労使慣習となると労使の双方を法的に拘束することになりますので、実質的に定年制を廃止したのと同様の状況となってしまいます。定年制を廃止する意図がない場合には、定年制を適用しない従業員についても、その基準を明確化しておくなどの工夫は設けておくべきでしょう。エルダー49知っておきたい労働法AA&&Q

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