エルダー2021年11月号
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場合には、労働災害として認定されることになり、さらに、企業に安全配慮義務違反(故意または過失)が認められるようなときには、企業に対する損害賠償責任につながります。近年では、企業の役員や直属の上司個人の安全配慮義務違反も問題視されることが増えており、企業だけの責任だけではなく、役員や部下を持つ管理職などにも関心をもってもらう必要があります。業務の過重負荷を原因とする、脳または心臓疾患による死亡や精神疾患を原因とする自殺がいわゆる「過労死」に該当しますが、厚生労働省では、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準」(以下、「脳及び心臓疾患の認定基準」)及び「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定め、2種類の労働災害の該当性(「業務起因性」と呼ばれます)を判断するための認定基準を用意しています。これらの認定基準においては、最も重要な指標として「長時間労働」が考慮されてきました。2種類の労災認定基準において、業務と過労死の関連性が強いと認定することにつながる時間外労働時間数は、「過労死ライン」と呼ばれています。いわゆる過労死ラインと呼ばれる長時間労働については、単純化すると、発症直前の1カ月の時間外労働時間数が100時間を超えたときや、発症前2カ月から6カ月の1カ月あたりのそれぞれの平均時間外労働時間数について、いずれかの平均値が80時間を超過するときなどが想定されています。これらの水準は、働き方改革における時間外労働の上限規制においてもほぼ同様に設定されており、過労死防止に対して罰則をもって臨むという状況に至っているといえるでしょう。「脳及び心臓疾患の認定基準」の見直しが行われ、厚生労働省は、2021年9月14日に新しい認定基準を公表しました。なお、「心理的負荷による精神障害の認定基準」は見直されておらず、既存の内容が維持されています。また、参考までに、労働者災害補償保険法の改正により、複数事業労働者の複数の事業の業務を要因とする傷病等については、すで過労死と労災認定基準について1過労死等防止対策推進法第2条では、「過労死等」の定義として、「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう」と定めています。いまは、「過労死」という言葉はすでに定着し、企業においては、過労死を発生させてはならないということ自体は半ば常識化しつつあるといえるでしょう。過労死については、業務に起因するような時間外労働の多さが中心である点は変更がないといえますが、負荷要因の評価をより詳細に行うことが予定されており、各社における業務の特色をとらえた対策を検討する必要があります。なお、休日の確保は、多くの企業にとって共通の対策になると思われます。A2021.1150労災認定基準改定の詳細について知りたい労災認定基準が改定されたとのことですが、どのような点が変更となったのでしょうか。これから気をつけなければならないポイントがあれば教えてください。Q2

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