エルダー2021年11月号
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に2020年7月に考え方が示され、「複数業務要因災害」として新たな保険給付がなされることになったことにともない、変更されていますので、副業・兼業を行う場合にも労働時間の管理には留意が必要です。労災認定基準改定の背景について2今回の「脳及び心臓疾患の認定基準」の見直しにあたっては、海外の研究論文などにおいて、週55時間を超えると、週35時間から40時間の場合と比べて、脳卒中と虚血性心疾患のリスクがどちらも高まることを示す十分な証拠が得られたという結論を示すものが現れており、既存の過労死ラインを見直す必要性がないかも含めて検討されたものと思われます。結論としては、既存の労災認定基準自体はほぼ維持されており、過労死ライン自体も変更されないこととなりました。だからといって、上記の海外の研究論文が無視されているわけではありません。意味があるのは、過労死ラインには及ばないがこれに近い水準の時間外労働が行われている場合に、「特に他の負荷要因の状況を十分に考慮すること」が求められるようになったことに表れています。海外の研究論文が示すところの労働時間が週55時間を超える場合とは、1カ月あたりの時間外労働に引き直すと、1カ月65時間程度の時間外労働に相当することになります。1カ月あたりの時間外労働が、80時間には及ばなくとも65時間程度に及んでおり、ほかの負荷要因がある場合には、労働災害として認定される可能性は、現在よりも高まると考えられます。負荷要因としては、不規則な勤務形態(拘束時間が長い、休日がない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務、交代制や深夜勤務など)、事業場外における移動をともなう業務(出張が多い業務、海外出張など)、心理的負荷をともなう業務(心理的負荷による精神障害の認定基準における心理的負荷評価表の一覧とほぼ同様)、身体的負荷をともなう業務(重量物の運搬作業、人力での掘削作業など)、作業環境(温度環境や騒音)などが想定されています。これらの負荷要因は、これまでにも示されていた内容もありますが、今後、過労死ラインには及ばないがこれに近い水準の時間外労働が行われている場合に、「特に他の負荷要因の状況を十分に考慮すること」が明記されたことによる影響は現れてくると思われます。企業において対応すべき事項について3今回の改定では、「脳及び心臓疾患の認定基準」のうち、労働時間以外の負荷要因を中心に改正されており、時間外労働を重視しすぎる傾向に変化をもたらすものと思われます。これまで、「脳及び心臓疾患の認定基準」においては、時間外労働以外の負荷要因もあげられてはいたものの、時間外労働の時間数が最も重要な要素とされ、それ以外の要素は考慮されにくい実情があったと思われます。過労死ラインに達しないことを目安として労働時間管理を行っていた企業もないとはいえません。企業における労務管理についても、時間外労働の上限規制をきっかけに時間外労働の抑制に取り組む企業が増えていますが、負荷要因については、労働時間の不規則性や事業場外労働の頻度、身体または心理的負荷のほか、作業環境など各社が自身の業務内容をふまえた分析および対策が必要となるでしょう。自社の業務内容に照らして、掲げられている負荷要因について、日常的に生じているものであるか、日常的に生じるものであればそれに対する対策をどのように行うのかという点を検討してください。なお、負荷要因のいずれにとっても休日の確保の影響は大きいと思われますので、多くの会社で共通する対策になりそうです。エルダー51知っておきたい労働法AA&&Q

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