エルダー2021年11月号
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エルダー59FOOD日本史にみる長寿食337食文化史研究家● 永山久夫サケの赤い肉が長寿を呼ぶサケの神秘的なパワーサケは「秋あき味あじ」とも呼ばれ、縄文時代から冬を越すための貴重な食糧資源でした。奈良時代の地誌である各地の「風土記」にも、秋の水産物と記されており、栄養的にも重要な食べ物だったのです。毎年、義理堅く群れをなして、母なる川をのぼるサケは、沿岸で暮らす人たちにとっては、あてにすることのできるごちそうでした。大量にとれるため、天日干しにしたり、塩引きなどにしたりして保存します。北国の川をさかのぼるサケには、強い生命力が宿っていると信じられ、古くから神への供え物としても重要に扱われてきました。アイヌ語では「カムイチェプ(神の魚)」と呼ぶそうですが、まさに神秘的なパワーを身につけた魚だったのです。平安時代になると、宮中の行事食として欠かせない貴重品となり、神しん饌せん(神へのお供え)や祭祀料、公家の給与などにも用いられ、その一部は市場でも販売され、庶民の間でも人気がありました。ビタミンDが免疫力強化 サケは肉質が赤く、ほかの魚とは違うところから神聖でおめでたく、不老長寿をもたらす魚とみられていました。同時に、赤い色は悪霊や疫病などを寄せつけない「厄除けの色」であり、冬になると流行する風邪などを防ぐ色としても珍重されてきました。サケの赤い色素はアスタキサンチンで、カロチノイド系の天然色素です。老化を防いで若さを維持する成分とされ、いま脚光を浴びています。紫外線やストレス、運動のし過ぎなどで発生する、毒性の強い活性酸素を消去する抗酸化力がきわめて強く、その働きはビタミンEの何倍もあるといわれています。最近、抗ウイルスのビタミンとして注目されているのがサケに多いビタミンDです。骨の健康を保つためのビタミンとして知られていますが、免疫力を活発にして、ウイルス感染を予防する強い作用でも脚光を浴びているのです。この冬は食卓にサケを多く取り入れて、インフルエンザや流行性の風邪を予防しましょう。

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