エルダー2021年12月号
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2021.1212まっている。役職離脱は、大きな節目とは感じず、意識の切り替えのきっかけにはなっていないようであり、会社と経験者の認識の差は大きく、会社側の認識が甘いことがうかがわれる。ただし、これまでに、職業生活(キャリア)の相談やアドバイスを受けることができた経験者ほど、勤務先が職業生活(キャリア)の希望を把握していると考えている経験者ほど、役職定年制の経験が、今後(役職離脱後)の職業生活(キャリア)を考えるために、役に立ったと考える者が多くなっており、こうした点については、会社と経験者の考えは一致している。おわりに―「役職定年制」の制度設計に必要なことは―4高年齢者雇用安定法改正にともない就業期間の長期化(70歳までの就労)が進展していくなかで、定年(60歳)はこれまでのように職業人生の終着点ではなく、新たな職業人生の出発点もしくは職業人生の一つの通過点へと変化しており、59歳以下の正社員(「現役正社員」)にとっては強制的にキャリアをシフト・チェンジする機会と位置づけることもできるようになってきている。高齢期に向けてのキャリア・シフト・チェンジは従業員一人の力だけではできるものではなく、会社や職場の上司からのサポートも重要であるが、最終的には、「定年制」に代表される組織として強制的にキャリアをシフト・チェンジする仕組みも重要になってくると考えられる。しかしながら、効果的に従業員のキャリアをシフト・チェンジさせるためには、定年前に「キャリアを巡って、企業と従業員のニーズを調整する仕組み」を整備することが必要不可欠であり、こうした「調整する仕組み」を整備せずに、強制的にキャリアをシフト・チェンジすると、従業員の働く意欲・会社に尽くそうとする意欲の低下を招く危険性もともなっている。同様なことは、キャリアの成功者であり、キャリアに強くこだわってきた部長や次・課長などの経験者を対象に強制的にキャリア・シフト・チェンジをうながすことができる「役職定年制」にもあてはまる。企業が「役職定年制」を用いて、効果的に従業員のキャリアをシフト・チェンジさせるためには、「キャリアを巡って、企業と従業員のニーズを調整する(「マッチング」)仕組み」を整備することが必要不可欠である。そのためには、第1に、企業は従業員の職業生活(キャリア)の希望を把握することが大切であり、把握する仕組みとして不可欠なのが自己申告制度である。「役職定年制」を効果的に運用するためには企業と従業員の「ニーズを調整する(「マッ〔参考資料〕●(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2016)『高齢社員の人事管理と展望―生涯現役に向けた人事戦略と雇用管理の研究委員会報告書―(平成27年度)』●(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援―高齢社員の人事管理と現役社員の人材育成の調査研究委員会報告書―(平成30年度)』)●(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2019)『調整型キャリア形成の現状と課題―「高齢化時代における企業の45歳以降正社員のキャリア形成と支援に関するアンケート調査」結果―(資料シリーズ1)』チング」)仕組み」を基盤とした自己申告制の整備・拡充が求められる。さらに、第2に、ニーズを調整する(「マッチング」)仕組みにはニーズに適合する準備に向けた支援も含まれる。特に、企業よりも情報の非対称性が強い従業員への支援が重要になってくるので、従業員の職業生活(キャリア)の相談やアドバイスが重要になってくる。加えて、従業員が自分自身の職業生活(キャリア)について考える機会としてのキャリア開発研修が必要不可欠である。こうした「調整する仕組み」を整備せずに、強制的にキャリアをシフト・チェンジすると、「役職定年制」の経験を大きな節目とは感じず、意識の切り替えのきっかけにならず、その結果、働く意欲・会社に尽くそうとする意欲の低下を招くことにつながると考えられる。

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