エルダー2021年12月号
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2021.1214部長クラスで57‌〜‌58歳ですから、これまでは長くても役職定年後の5年間というかぎられた期間のなかで対象者のモチベーションを下げない形で活用(積極活用というよりは限定活用)できればよかったのですが、さらなる雇用延長の流れのなかで、役職定年後の雇用期間も延びていくため、対象者のモチベーションを維持しながら長く活躍してもらうことはよりむずかしくなります。役職定年制が形骸化している企業の特徴としては、①適切な後任者がいないため、「実質的に」役職を継続してしまっているケース、②役職定年後に一業務担当者に戻った際、対象者の持つ知識・スキルが陳腐化しており、再教育も間に合わず期待したパフォーマンスが発揮できないケースなどが典型的ですが、単純に雇用期間だけが延長されて対策が講じられなければ、さらに状態が悪化していくであろうことは容易に想像できます。そこで、これまで不十分であった、役職定年を迎えた社員の活用方法および評価・処遇制度の内容について根本的に考え直す必要があるのではないか、という議論が生じてきています。これらの問題について検討すべき論点は多岐にわたりますが、役職定年制を成功させるために重要と思われるポイントを三つに絞って、いくつかの事例とともに解説していくこととします。ポイント1役職定年後の期待役割を明確化し、能力・経験を活かせる配置を行うまずはじめに、役職定年によりマネジメント業務を外れた後、「対象社員に何をしてもらうか」、「どういう活躍を期待するのか」ということを、会社全体の方針として明確にすることが必要です。これまでは役職定年から実際の定年に至るまでの期間が短かったことから、役職定年後の社員への期待役割の設定は曖昧になっていたケースが多かったものと思われますが、今後、雇用期間が延長されていくなかでは非常に重要なポイントとなります。役職定年後の社員の活用方法として考えられる主要な選択肢としては、①技能伝承や後進育成の役割②マネジメントの補佐的役割③ベテランプレイヤーとしての役割の三つがあります。なお、④雇用期間の延長に合わせて役職定年となる年齢自体を引き上げる方法、⑤社外での活躍を促進する方法(副業・兼業の推進)なども考えられますが、本稿では、引き続き社内で、かつマネジメントとは異なる活躍を促進するという観点を重視して、④⑤は検討事項から除外することとします。①技能伝承や後進育成の役割特に製造業などにおいて、当該企業の競争力の源泉となっている類の属人的な技術が計画的に継承されずに失われていくことが非常に大きな経営課題となっています。とりわけ中小企業においては、大半の役職者が同時に高度な技術者であることも少なくなく、役職定年後の役割として計画的な技能伝承を課すことは重要なテーマとなります。役職定年後にどの程度技能伝承にかかわってもらうかについては対象となる技能の性質にもよるものの、当該企業にとって重要度が高い(緊急性、優先度ともに)ということであれば、技能伝承の対象者を早期に確定し、後進育成に特化した業務をフルタイムで実施してもらうことも一案です。もちろんその場合には、一業務担当者として勤務してもらう場合とは異なり、技能伝承にかかわる目標設定をはじめとした評価基準および処遇の仕組みを専用に整えていくことも必要でしょう。②マネジメントの補佐的役割一プレイヤーとしてではなく、後進となる役職者の伴走役として、引き続きマネジメントの補佐的な役割をになってもらうことも重要な役

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