エルダー2021年12月号
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2021.1216ポイント3組織インフラの整備を含め、役職定年前の段階から必要な準備を行う最後に、ある面ではもっとも重要な取組みですが、役職定年後の社員を活用するために必要な、組織インフラの整備を含めた計画的な準備を行っておくことが求められます。例えば、ベテランプレイヤーとしての役割を発揮してもらうにあたり、役職経験の長かった社員にとって、ブランクを埋めることはそうたやすいことではないというケースもあるでしょう。技術の進歩が目覚ましい業界であれば特に、現場で求められる知識やスキルの変化は激しく、陳腐化も早いということであれば、役職定年後にそうしたギャップを埋めるためのトレーニングの機会を与えることは最低限必要でしょうし、むしろ役職定年を迎えるもっと前の段階から、そうした教育ないし自己投資の機会を計画的に与えていかなければ遅いという判断もありうるでしょう。対象者の意識改革も重要です。役職定年後にガラッと役割意識をチェンジできる人の方がむしろ少ないと思われますし、「キャリア開発」という視点で早い段階から役職定年後を見据えた自身のキャリアについて考えさせる機会を設けておくことが重要と考えられます。こうした組織インフラの整備も含めた、役職定年前の段階から必要な準備を行うという視点は多くの企業で欠けているといわざるを得ません。また、これらはすぐに実現することができない性質の取組みが多く、だからこそ大半の企業が役職定年後の社員の活用および評価・処遇に困っているということでもあります。逆にいえば、役職定年制の運用で成否の差がもっとも出やすい部分でもあるため、あらためて重要な取組みと認識していただきたく思います。役職定年制の廃止と評価・処遇制度3上記のような状況をふまえると、役職定年制を導入(あるいは維持)することに対して慎重にとらえる企業も出てくるものと思われますが、一方で役職定年制を廃止することも、実際にはそうたやすいテーマではありません。もちろん、形式上役職定年制を廃止すること自体は決してむずかしいことではないものの、以後は「年齢」を理由とした組織の強制的な若返り策を行使することはできなくなります。若手・中堅社員からはポストが空かないことに対する不満が噴出するかもしれませんし、あるいは優秀な役職者であれば60歳を超えても、65歳を超えても役職者として居続けてもらえることになりますが、全社的な観点で見たときの良し悪し、また現実的に運用可能なのかどうか、ということなどはあらためて検討される必要があるでしょう。役職定年制を廃止するということは、ある面では、「年齢」によらない適材適所の実現に向けた組織づくりの本格的なスタートともいえますが、雇用年齢の上限が伸びていく社会のなかで、このことが単純でないことはご想像いただけるでしょう。役職定年にかかわる高齢者層の将来だけを考えればよいわけではなく、今後は若手も含めた全社的な人事のあり方を見直していくことも視野に入れなければいけません。もちろん、そうしなければ(人事制度を変えなければ)必ずしも役職定年制を廃止してはいけないということではありませんし、廃止してたちまちに大きな問題が起きるということもないでしょう。しかしながら、実務上は単に役職定年制を廃止するということだけではなく、そのことを機会として、従来型の年齢や能力を軸とした「人基準(年功主義、能力主義)」の評価・処遇制度を抜本的に見直し、仕事そのものを軸とした「職務基準(役割型、ジョブ型)」へと見直しを図っていくことが中長期的な視点では望ましいでしょうし、そのような企業も着実に増えてきています。

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