エルダー2021年12月号
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2021.1218判例の内容からすると、裁判所においては、賃金の減額をともなわない、職階や役職制の変更については、比較的緩やかにその合理性を肯定する傾向があるといえます。就業規則の不利益変更による導入について3多くの企業では、設立当初から役職定年制を導入しているわけではなく、従業員の増加などにともない、ポストが埋まってしまう、年齢層が高齢化して賃金総額が上昇していくなどの経過をたどり、人事制度全体の見直しのなかで、役職定年制の導入が検討されるという過程をたどるのではないでしょうか。したがって、役職定年制を導入するにあたっては、既存の就業規則を変更して、役職定年制を導入するという手続きが採用されることになります。労働契約法第10条が、就業規則の変更による労働契約の内容の変更について定めています。手続的には、変更後の就業規則を労働者に周知することが必要とされます。次に、内容に関して、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況、⑤その他の就業規則の変更に係る事情に照らして、合理的なものであるときは、就業規則の変更が有効となります。労働契約法第10条に示された要素は、かねてから最高裁の判例で示されていた内容と同一であり、「みちのく銀行事件」の判決でも、同趣旨のことが述べられているうえ、さらに、「特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべき」とされており、容易にその変更の合理性は肯定されないと考えられます。過去の裁判例について4役職定年制導入に関する裁判例の数は多くありませんが、参考になる裁判例を紹介します。まず、リーディングケースである「みちのく銀行事件」を紹介します。役職定年制導入の理由(目的)は、「高年層への人件費の偏在化という構造的問題があり、人員構成の高齢化に伴いこの傾向が年を追うごとに顕著となり、結果として総人件費を圧迫し、若手・中堅に対する処遇が極めてバランスを欠いたものになって」いたことがあげられており、最高裁においても高度の経営上の必要性があったことが認められています。役職定年制の内容は、60歳定年制の事業主において、55歳以上の従業員について、専任職(「所属長が指示する特定の業務または専任的業務を遂行することを主要業務内容とする職位」)という役職を解いた状態として、管理職手当や役職手当を控除したうえで、業績給および賞与も削減するという計画でしたが、労働組合からの再提案もふまえて5年かけて徐々に減額していくという経過措置をともなったものとなりました。なお、賃金減額の程度については、従業員ごとに差異がありますが、削減率16%から最大で削減率56%となっていました。結論としては、以上のような状況をふまえても、役職定年制の導入に合理性があるとは認められず、役職定年制の効力が否定されました。否定的に考慮された事情としては、削減率が大きすぎるという点に加えて、55歳以上の従業員については総額10億円を超える賃金の削減が実行される一方で、それ以外の従業員に対しては賃金が増額され、人件費全体としては増額していたことがあげられます。賃金総額を削減するにあたっては、一部の属性を狙い撃ちするのではなく、各世代や属性に応分負担を求めるこ

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