エルダー2021年12月号
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2021.1220役職定年制導入にあたっての留意点5裁判例をふまえて、役職定年制の導入にあたって考慮されてきた要素を整理すると、図表のような点があげられます。なかでも、結論をもっとも左右する重要な要素は、賃金減額の程度と応分負担がなされているか(55歳以上の労働者以外にも負担が求められているか)という点でしょう。賃金減額幅の程度については、裁判例を参考に検討した値であり、ほかの要素との関係で結論は左右される点には留意してください。また、不利益の程度とのバランスのとり方としては、職務内容の変化も重要です。ただし、職務内容の変化については、役職が変わってもこれまでの働き方と変わらないという状況も十分に想定できるところであり、職務内容に関して役職を解く前後の内容を書面化して示すようにするなど、変化を明確にしておくことも重要です。例えば、部署を変えることも一つの選択肢でしょうし、または、労働時間(または労働日数)自体を削減する、時間外労働を原則禁止するなどの方法で総労働時間を減らすといった工夫も考えられるところです。第三銀行事件において有効とされた背景にもみられる通り、役職定年制だけを導入するのではなく、全体的な人事制度改革の一部として位置づけ、各世代への応分負担を求めつつ、メリットとデメリットのバランスが確保された内容として調整していくことが、役職定年制導入時の法的な課題といえるでしょう。※著者作成図表 役職定年制導入にあたり考慮すべき要素考慮される事情不利な事情有利な事情高度の必要性経営危機などがともなわない人件費の削減であること経営危機など解雇回避のために受忍すべき状況にあること賃金の減額幅最低でも20%を超えるなど大きいこと最大で10%程度であるなど小さいこと賃金以外の労働条件の改善の有無労働条件の改善がともなわないこと昇格要件の明確化や早期化、業績に連動する給与の割合増加、勤務地に関する希望の考慮など労働条件の改善をともなうこと不利益を受ける対象者変更当時の55歳以上の労働者などに負担が大きいこと役職定年制対象者のみではなく、労働者全体に負担を分散させていること職務内容の変化変化がなく、業務負担や責任の軽減がともなわないこと業務の負担、責任の軽減があり、その内容が明確であること経過措置の有無・程度経過措置がない、または、不利益を緩和する措置の導入が短期間であること長期にわたって徐々に不利益の程度を拡大するなど、労働者に準備期間があること選択肢の提示役職定年制以外の選択肢がないこと複線型のコース採用(その選択)や早期退職制度の導入などの選択肢を増やすこと手続的要素労働者の理解が得られていないこと多数の労働者が加入する労働組合や多数労働者の理解を得られていることまたはそのための交渉を継続してきたこと

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