エルダー2021年12月号
30/68

2021.1228の役割を認識して仕事をしています」事務職においては、当初、降職後にモチベーションが下がるケースが一部にみられたというが、田村人事部長は「65歳定年が定着するなかで社員の意識が変わり、現在はそれぞれが自分の強みや経験を活かして力を発揮しています」と話す。公共交通の再編と並行して多様な働き方の改革を進める役職定年制は、現段階ではいまの内容で継続していく方向だ。制度導入時は参考になるモデルがなく、役職定年者にとっても会社にとっても戸惑うことがあったが、降職後も役割を変えて活躍しているモデルケースとなる人材も出てきており、次の世代が先輩の背中を見て将来を考えることができるようになった。また、2017年に短時間正社員制度を導入後、乗務員のシフトが組みやすくなるというメリットがあった。子育て世代は保育園の送り迎えの時間帯の勤務がむずかしい一方で、シニア社員には早朝の勤務の希望者が多いことがわかり、それぞれの希望する時間帯を組み合わせてシフトを組むことで社員に歓迎されている。シニア世代がさらに増えていくなか、社員の健康管理を重要視し、高齢になると健康状態の個人差が大きくなるため、健康診断のメニューを増やしたり、人間ドックの回数や産業医の面談を増やしたりして取組みを充実させている。さらに、毎日の点呼は管理者と乗務員が対面して行っているが、今後は、血圧や血中酸素濃度を測定するなど健康に対する科学的なアプローチを加え、健康リスクの低減を図っていく方法も検討している。人財管理本部では、「多様な働き方」をスローガンに掲げ、シニアの活躍推進を含む全社員を対象にした働き方改革を進めている。働き方だけに着目した改革ではなく、広島電鉄の目標である「地域社会の発展」と並行させて、公共交通の路線再編という大規模な視点から具体的提案を行い、行政、同業他社と連携して進めているという。「広島は路面電車に加え、主に7社のバス会社がそれぞれ路線バスを運行しているバスの街です。多くのバス路線が中心部へ乗り入れ、ラッシュ時は過密状態となっています。一方で、交通空白地域もあるといった地域課題もあります。そこで、中心部のバスの過密状態を解消し、ほかの地域にバスと人員を再編することで空白地域をなくすことができるのではないかと考えています。もちろん、お客さまの利便性や運賃を考慮しながら考えることが最重要ですが、例えば、中心部を走る基幹バスと郊外のバスを分けることができれば、過密状態がなくなると同時に、乗務員は郊外から中心部まで運転をすることがなくなり、短時間勤務をしやすくなります。バスも小型化でき、運転もしやすくなるといったメリットも想定できます」(坂谷課長)現在、同社では、こうした路線の再編と調和する、多様な働き方の改革を考えているという。年齢にかかわりなく、また、子育てや介護をしながら無理なく働ける仕組みがそのなかでどう実現されていくのか、今後も注目したい。広島電鉄本社とその前を走行する路面電車

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る