エルダー2021年12月号
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特集役職定年制のメリット・デメリットエルダー35たうえで教育係にしてもよさそうだが、「やはり、審査部長、管理部長、人事部長など現場のトップの役職にいると、『がんばらなければ』という気持ちになります。この先、役員になれるかもしれないという期待ももてるでしょう。本人たちのやる気を維持するには、早く役職を解くべきではありません」(山本理事長)と判断した。同組合が役職定年制を導入したのは、1990年4月。当時は、組織の新陳代謝をうながす目的で導入したが、役職定年になると、どうしてもモチベーションの低下が避けられなかった。役職定年の廃止により、定年までやりがいをもって働き続けられるようになった。同組合のように役職定年を廃止する組織がある一方、役職定年を導入する企業もある。役職定年を新たに導入する企業には、「組織を若返らせたい」といったねらいがあるが、その点について山本理事長は、「若手にベテランと同じだけのノウハウがあるかというと、私にはそう言い切ることはできません。彼らも、実力がないのに支店長などになることは望んではいないでしょう。『実力がないと支店長などになってもダメ』ということは、理解しています。もう少し勉強してから偉くなりたいというのが本音ではないでしょうか」ととらえている。一方で、役職者への若手や女性の登用も進めており、係長や課長代理に積極的に就かせている。他社の場合、課長代理などライン長ではないポストは極力なくそうとする企業も多いが、同組合は、「コストはかかるが、ある程度は、課長や課長代理が増えてもよい」という方針を採っている。そのため、若手にも昇進のチャンスは多い。ちなみに、男性の66・9%、女性の52・6%が係長以上である。また、年功序列的に昇進させていくことはなく、優秀な人は30歳で支店長にすることもある。こうした運用を行っているので、優秀な若手層が「上が詰まっているから昇進できない」と不満を抱くことはない。なお、優秀な若手を支店長など上位の役職に抜てきする場合は、それまでその役職を務めていたベテランを外す必要が生じることがある。そのようなときには、降格させるのではなく、本部の審査部などで、それまでに身につけたノウハウを活用してもらうようにしている。いち早く定年を65歳に引き上げ役職も65歳まで継続可能に役職定年制を廃止した3年後の2017年4月には、職員の定年を60歳から65歳に引き上げ、定年後継続雇用の嘱託職員の上限年齢もそれまでの65歳から70歳に引き上げた。それまでは、60歳定年後、希望者全員が62歳まで、労使協定で定めた基準を満たす職員については65歳まで嘱託職員として継続雇用することとしていた。実際には、ほぼ希望者全員が65歳まで継続雇用されていたが、仕事内容や役職も変わり、賃金も大幅に下がるので、モチベーションの低下がみられたという。とはいえ、前述のように、同組合には若い職員も多く、高齢化が進んでいたわけではない。世の中でも、まだまだ65歳定年の企業は多数派ではなく、定年延長の機運が高まっていたとはいえない時代だった。にもかかわらず、他社に先駆けて定年延長をした理由は二つある。一つは、「高齢者の知識、ノウハウを活用したい」というねらい。「やはり35年、40年と経験を積んできた職員は違います。仕事の痛い、かゆいがわかっています」と山本理事長はいう。もう一つは、「今後の人口減少、若者の減少への対応」だ。預金と融資に特化した独自の経営戦略、その結果としての好業績、あるいは働き方改革や待遇改善などにより、現状では、学生の就職人気企業ランキングで上位に位置しているが、中長期的には、「これからの採用は、いままでどおりにはいかなくなる」ととらえている。

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