エルダー2021年12月号
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2021.122東京慈恵会医科大学附属病院 副院長安保雅博さんやすくなる危険因子があり、「絶対に防げない危険因子」と「防げる危険因子」の二つがあります。防げない因子は年齢、性別、家族歴などです。年齢では55歳以上で10歳ごとにリスクは2倍になり、高齢になるほど脳卒中になりやすくなります。性別では女性より男性がなりやすく、家族に脳卒中の人がいるとリスクも高まります。重要なのが「防げる危険因子」です。具体的には高血圧、糖尿病、高脂血症などの成人病、肥満、喫煙、過度の飲酒などがあげられます。したがって、脳卒中にならないためには、塩分の高い食べものを控えるなど食生活に気をつけること、タバコは吸わないほうがよいし、お酒も飲み過ぎないようにすることです。自分でできることは自分で予防することが何よりも大切です。―高齢期も健康に働き続けるためには、若いころから気をつけて予防しないといけないということですね。安保 その通りです。「自分はまだ若いから」―改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となり、加齢による身体機能の低下をふまえた労働安全衛生対策が職場で求められています。留意すべき疾患について教えてください。安保 私が医師になったころのリハビリ分野では、加齢にともなう疾患としては骨関節の疾患が多かったのですが、いまでは脳卒中がもっとも多くなっています。脳卒中とは一言でいえば「脳の血管が切れたり詰まったりする病気」です。2000(平成12)年の脳卒中の発症者は約24万人でしたが、2025年には約33万人になると予測されており、2人に1人が脳卒中になるといわれています。脳卒中は脳の血管の病気ですが、実は認知症も脳血管性のものが多いのです。認知症というとアルツハイマー型認知症を想像する人も多いと思いますが、脳血管性認知症はその次に多くなっています。 病気はどれもそうですが、脳卒中にはなりと安心してはいけません。人の身体機能は30歳をピークに衰退します。徐々に筋力や骨密度が落ち、体の柔軟性がなくなり、体力は落ちていきます。日々の仕事に対する処理能力や対応能力は慣れて向上しているように見えても、実際は知的活動のスピードも落ちていきます。大事なのは「筋力、体力は落ちていく」ことを早い時期から認識することです。私は58歳ですが、何かスポーツでもやろうと思っても体が硬くてできません。ゴルフは好きなのでたまにやりますが、遠くに飛ばそうと思っても飛びませんし、高いクラブを買っても結局、飛びません。 40代、50代は仕事が忙しい時期ですが、仕事に集中する一方で、身体の衰えを自覚し、予防することを心がけてほしいというのが、私がもっとも伝えたいメッセージです。何もしないで単に適応能力だけに頼っていると徐々に体力が落ちて、ある日、パンクしてしまうことになりかねません。―若いころから心がける予防策とは、どのようなことでしょうか。安保 私たちは医師なので、脳出血や脳梗塞など病名がついている患者さんの健康管理はある程度できますが、何も症状がない人は予病気には、自ら予防することで「防げる危険因子」がある

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