エルダー2021年12月号
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2021.1238 「上様(将軍)が罷ひ免めん(クビ)にした扱いにします」と告げた。それまで〝江戸城の鬼〞とまでアダ名された白石への報復だ。 「白石がクビになった」という噂が広まると、白石は俗にいう〝川に落ちた犬〞になった。「川に落ちた犬には礫つぶて(石)をぶつけろ」という言葉通り、石の礫が四方から飛んできた。陰湿なイジメも始まった。 住んでいる家・土地も管理する役所(勘定奉行所)から「至急お返し願いたい」と云ってきた。幕府の書庫から借りていた図書も、「いついつまでにお返しください。図書も備品ですので」と云われた。 白石は情けなくなった。 (人の心はこうも変わるものなのか) と嘆いた。新しく住む家を探しながら白石は、毎日庭を掃いて過ごした。丁度季節なので、庭は落 新あら井い白はく石せきは江戸時代中期の学者だ。クールな合理性と鋭い思考力で、いまでも高く評価されている。特に静かな目で分析する歴史眼は現在でも評判が高い。 その才智を見込まれて、六代将軍徳川家いえ宣のぶの就任前からブレーンになった。家宣就任後はほとんど老中(閣僚)と同等の力を持ち、腕を振るった。国民が信用する貨幣の発行や汚お吏り※の追放など、勇気をもって実行したので、現在の史書にも〝正しょう徳とくの治ち〈正徳はこのころの元号〉〞として記録されている。 しかし家宣が死んで八代将軍に紀州藩主徳川吉宗が就任したころには、ガラリと扱いが変わった。白石は辞表を出した。自分から身を引くという意思表示だ。が、担当役人は、江戸城の鬼が川に落ちた犬に[第109回]※ 汚吏…… 悪いことをする役人

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