エルダー2021年12月号
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労働者に与える不利益の程度の相違から生じる差異ですが、多くの企業で実施される降格は、②の意味合いで行われることが多く、就業規則上の根拠に基づき行うことが適切でしょう。なお、人事権の行使としての降格と対比されるのは、懲戒処分としての降格ですが、懲戒処分である以上、当然に就業規則の根拠が必要となり、懲戒権の濫らん用ようは許されないため、懲戒処分としての降格の実施にあたっては、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効となります(労働契約法第15条)。降格後の地位と雇用延長に関する協議2降格を実施した後、雇用契約を延長する場合に、当然ながら使用者は降格後の地位を前提とした雇用延長を検討することになります。一方で、労働者からは、降格処分に納得がいっておらず、降格していない地位での雇用継続を交渉してくることもあるでしょう。双方の意思が合致して、降格後の地位で新たな労働契約が成立すればよいのですが、双方の意思が合致しない場合には、雇用延長に向けて協議を重ねることになるでしょう。このような場合に、労働契約法第19条における、有期労働契約の更新に対する期待可能性などをどのように考えればよいのかという点は、実はむずかしい問題です。使用者としては、降格済みであり、降格前の地位における雇用を継続する意思は有していないことは明らかといえますが、降格後の地位としての労働契約は締結してもよいという場合があります。一方で、労働者としては、降格後の地位は受け入れがたく、降格の効力がない状態に戻らなければ、労働契約を継続したくないという意思がありそうです。とすると、「労働契約を継続したい」という抽象的なレベルでは合致しているかのように見えますし、労働者も労働契約の継続を期待しているともいえそうですが、このような場合に、労働契約法第19条第2号(更新に対する合理的な期待)によって労働者が保護されることになるのか、という点が課題となります。降格後の地位にある人物に対する雇止めに関する裁判例 3今回の設問において参考にしたい裁判例が、東京地裁令和2年12月4日に判決された事件です。事件の概要としては、定年を超過した年齢で、専門性のある経歴を有している人材を事務局長として雇用開始したところ、事務職員に対するセクハラおよびパワハラが発覚したうえ、業務内容においても複数の不備が生じており、事務局長としての適格性を疑わせる事情が複数存在するに至りました。そこで、事務局長の地位から降格し、その後期間満了をもって労働契約を終了させるに至ったという事案です。まず、降格に関する権限については、「使用者は、人事権の裁量の範囲内において、労働者を一定の役職に就けたり解いたりできることからすると、…経験を見込まれて採用されたとしても、このことをもって、直ちに、本件雇用契約において、原告を事務局長の役職から解くことはできない旨の合意をしたと認めることはできない」として、まずは、人事権の行使としての降格権限があることを肯定し、降格にともなう賃金の減額もほとんどなかったことから降格の効力を肯定しました。一方、労働契約の更新回数が4回であり、通算約5年に至っていたことおよび事務局長としての定年が70歳(役職者のみ定年年齢が高く設定されていた)であり、残り2年間であることから、合理的な期待を有していたと解する余地はあるとされつつも、「原告の更新に対する期待とは、事務局長として本件雇用契約が更新されることであり、事務局職員の立場で本件雇用契約が更新されることは期待していないものと推察される」ことから、期待可能性があるとは認めませんでした。ここでは、労働契約法第19条第2号が定める、更新に対する合理的な期待について、使エルダー49知っておきたい労働法AA&&Q

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