エルダー2021年12月号
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なくむずかしい問題です。裁判例から見る処分の程度について2使用者を批判し、上司らを非難したり、不適切なあだ名(態度や体型や外見などを基にしたものと思われるもの)で揶揄するメールをくり返し送っていた事案で、出勤停止5日間を有効と判断した最近の裁判例(以下、「本件」)があります(東京地裁令和2年7月16日判決)。当該裁判例では、上司らをあだ名で揶揄するメールを約1カ月間で合計11通送信し、その内容は、「経営について建設的な意見を述べたものではなく」、「一方的に批判し、揶揄する内容であ」ったことが認定されています。前述のとおり、法令違反を是正するような内容など、建設的な意見であれば、本件のような結論にはなっていないと思われますが、社内のメールを用いて、非建設的な社内批判をくり返すような状況であれば、処分の対象とすることは可能といえるでしょう。本件では、「メールの内容、表現に加え、送信した相手の人数、頻度、期間などの事情を総合」して、「メールの送信は、…担当の業務に専念し、能率発揮に努めるべき義務」を怠っていることを指摘したうえで、社内のメールシステムを用いた点についても、「許可なく職務以外の目的で被告の施設、物品等を使用した」という就業規則に定められた懲戒事由に該当すると判断しています。また、生じた結果についても、最大で18人の職員に送信していたことなどもふまえて、「業務とは無関係の内容の上記各メールを作成、閲読させるなどして被告の業務に与えた影響も考慮すると、上記就業規則等に定める義務違反の程度を軽視することはできない」と判断しており、義務違反の程度も重く見ています。職務専念義務に違反するか否か判断するにあたって総合考慮された事情は、個別のケースごとに相違するため、安易に職務専念義務を怠ったと断言することはできませんが、メールの内容を十分に考慮して判断することが重要であり、その期間や頻度を把握する方向で社内調査を進めることも、的確な判断を示すためには重要と考えられます。処分の相当性の確保について3出勤停止5日間という処分がどの程度の処分であるのか、ということも正確に理解しておく必要があります。本件では、出勤停止処分が就業規則に定められた懲戒処分のなかでは3番目に重い処分とされています。そして、本件では、出勤停止期間中の賃金支払の停止、賞与算定期間からの控除、定期昇給の停止などもともなった結果、約80万円の損害を処分対象となった労働者に生じさせたとされています。出勤停止よりも降格などの重い処分が定められていることもありますが、出勤停止という処分は、おそらく一般的にイメージされている以上に裁判所では重い処分として想定されており、有効と認められるには相当な根拠が必要とされます。本件においても、処分が相当と判断された前提として、重要な二つの要素があります。一つ目は、懲戒処分よりも前に、同様の行為を行ったことに対する口頭による厳重注意が行われていたという点です。また、本件では口頭による厳重注意から間をおくことなく懲戒処分の対象とされたメール送信が行われた点も労働者の悪質性を強調する出来事となっていました。二つ目は、二度にわたって弁明の機会を与えていたという点です。弁明の機会を与えた際には、「いわれている人間の行動に問題がある」などの開き直りともいえる態度をとっており、酌量の余地がないと判断することも容易だったといえるでしょう。懲戒処分にあたっては、事前の改善の機会を与えておくこと、事後の弁明の機会を与えることによって、有効性を維持できる可能性を高めることができますので、適切に実施しておくことが重要です。エルダー51知っておきたい労働法AA&&Q

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