エルダー2021年12月号
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2021.124りますが、転倒予防について教えてください。安保 転倒をゼロにすることは絶対に不可能です。私もたまにつまずきますし、だれもが1年に1回程度は転倒しているのではないでしょうか。年を取ると腕を骨折する人、股関節を骨折する人がいますが、腕を骨折するのは転倒してとっさに手が出るからです。バランスを崩して腰から地面に倒れ、骨がもろいと股関節を骨折します。大事なことは転倒しても「骨折しない」ことです。したがって転倒することを前提に考えた対策としては、バランス能力と筋力を鍛えることと、家の環境を安全にすることです。実は外出中より屋内での転倒が多いのです。足元が暗いとか、ちょっとした段差や障害物につまずいて転んでしまいます。フローリングで滑って転ぶこともあります。防ぐにはつまずく可能性のあるものを排除すること。スリッパは引っかかりやすいので素足のほうがよいでしょう。 高齢者が転倒しやすいのは体が棒のように硬くなり、体を捻れば転倒を防げるのに捻れなくなっているからです。バランス能力を鍛えるにはさまざまな方法があります。私の本では「片足立ち」や「つま先立ち」練習、立った姿勢で後ろを振り返る方法などを紹介しているので、ぜひ参考にしてください。―高齢になっても働き続けるには健康が第一です。企業が取り組むべき課題は何でしょうか。安保 高齢になっても働くことは健康維持につながりますし、国も社会経済の観点から高齢者の就労を推進しています。一方で、高齢の就業者が増えると病気やけがなどを原因とする何らかの障害のある人が増えてきます。私は脳卒中の人を診ていますが、一人ひとり後遺症が異なり、右手は使えるが左手が使えないなど、人によってできること、できないことが発生します。私たちが医師として治療しても、就労先から「これができないと困る、あれができないと困る」といわれ、就労につながらないという現実もあります。そうなると障害のある人を会社に復帰させること自体がむずかしくなります。そこで私たちが現在検討している就労支援の仕組みが、病院施設内の業務に実際に従事してもらい、その人が具体的にできる業務を明確にして、企業に橋渡しをするというものです。施設内には清掃、ベッドメイキング、配送・配達、会議室設営、簡易手作業などさまざまな業務がありますし、職業能力を向上させることも可能です。あるいは企業側のニーズを聞いて、大学病院の訓練士が現場でジョブコーチとして訓練することもできます。―70歳まで働くとなると、就労支援の仕組みは今後ますます必要となる重要な機能ですね。安保 例えば企業から何らかの病気や障害のある人を紹介してもらい、私たちが評価・訓練を実施し、「こういう仕事ならできますよ」と提案し、再び就業するという循環モデルをつくることもできます。私たちと一緒に協力・連携したいという企業があれば、ぜひ声をかけていただきたい。高齢者が活き活きと働ける職場を一緒につくっていきたいと考えています。障害が残っても働けるように病院と職場が連携して就労支援を(聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博)東京慈恵会医科大学附属病院 副院長安保雅博さん

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