エルダー2021年12月号
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エルダー7特集役職定年制のメリット・デメリットはじめに―「役職定年制」の機能とは―1「役職定年制」とは一定年齢に達したときに役割を解く制度や仕組みであり、似たような制度として、「役職の任期制」がある。この制度は管理職の役職を一定期間で改選することを前提にこの期間の業績を厳しく管理し、任期末に管理職としての適・不適を審査し、再任、昇進、降職、ほかのポストへの異動などを行う役職への就任年数を限定する制度である。役職定年制の特徴は役職段階別に管理職がラインから外れて専門職などで処遇される制度であり、大手企業では、概ね1980年代から行われた55歳定年制から60歳定年制への移行に際して、主に組織の新陳代謝・活性化の維持(次世代育成のため)、人件費の増加の抑制などのねらいで導入されたケースと、1990年代以降に社員構成の高齢化にともなうポスト不足の解消などのねらいから導入されたケースが多いとされている。この制度が導入された社会的な背景は大きく二つある。一つは、大量雇用層の管理職登用のためのポスト用意の側面である。いざなぎ景気※時に大量採用された世代と、それに続く団塊の世代が管理職適齢期を迎えるにあたり、彼らのためにポストを用意しておかなければ企業としてもこの世代を処遇しきれなかったためである。もう一つは、当時は、概ね、処遇がポストによって決まっていた点があげられる。ポストに就かなければ処遇は上がらないため、ポストの循環をよくして次世代の人材を処遇するために役職定年制が導入されたケースが多いとされている。別の観点から考えると、「役職定年制」・「役職の任期制」(二つの仕組みはほぼ同じような仕組みであるため以下では、「役職定年制」と略す)はキャリアの成功者であり、キャリアに強くこだわってきた部長や次・課長などの経験者を対象に強制的にキャリア・シフト・チェンジをうながすことができる制度である。これまでに、企業で導入されている多くの「役職定年制」は60歳定年をベースとして、50歳代後半以降に就いていた役職を降りるような制度設計がされており、役職を降りた後の就労期間は短く設定されている。そのため、役職を降りた後のキャリアや働く意欲・会社に尽くそうとする意欲を考慮せずに、制度設計が行われている可能性が高いと考えられる。しかしながら、今後は、高年齢者雇用安定法改正にともない就業期間の長期化(70歳までの就労)が進展していくなかで、役職を降りた後の就労期間が長くなる可能※ いざなぎ景気……1965年11月~1970年7月にかけて57カ月間続いた好景気のこと総 論役職定年制の機能とキャリア・シフト・チェンジ玉川大学 経営学部 教授 大木 栄一

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