エルダー2022年1月号
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特集シニアのキャリア・チェンジエルダー9成長する力をつけるコツはすごくシンプルで、“逃げないこと”です。何か困難に遭遇したときに、逃げずに何とかやり抜くことを重ねていくと、自然に身につく力です。最近では、「レジリエンス」と表現されることが多いですね。困難な仕事をやり切って、そのときのトラブル対応が失敗しても成功しても、そのような経験を客観的・意識的に自分のなかに定着させることが、キャリア・チェンジへの不安の壁を低くしてくれると思います。また、先ほども少し触れましたが、社外に学びの場を求めるいわゆる「サードプレイス(居場所)」をもつことも有益だと思います。サードプレイスは探すものではなく、自らつくっていくものです。よく定年後の居場所探しが話題になることがありますが、心地よいサードプレイスは、やはり一定の時間経過やそれまでの交流などを通じてできる関係なので、一朝一夕にはつくれません。このようなサードプレイスで得られた人的交流や社外人脈、新鮮な学びがキャリア・チェンジをきっと後押ししてくれると思います。本来の職業能力を磨きながら、レジリエンスを鍛え、サードプレイスをもつことで、キャリア・チェンジにともなう不安やリスクも軽減できるのではないかと思います。シニアのキャリア・チェンジにおいて企業に求められる対応とは―企業の立場からみた、シニア社員のキャリア・チェンジについてお聞きします。高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会の確保が努力義務化されました。また、ほかの企業や社会貢献事業を行うNPOなどを含めた幅広い形での就業機会の選択肢が示されました。実務的に企業として、高齢者雇用の取組みのなかに、どのようにキャリア・チェンジを位置づけていけばよいのでしょうか。高平 いま多くの企業は、そこに悩んでいると思います。法改正に対応していくことは当然として、キャリア・チェンジに関していえば、企業は自社社員の自律的キャリア観や仕事への自走力をつけるために、少なくともいわれた通りにだけ動くイエスマン社員を評価するような風土は一掃した方がよいと思います。また、前例主義やことなかれ主義も、社員の自律性を塞ふさぎかねません。要は、メンバーシップ型の昭和モードの名残りを変革するべきです。また、再雇用制度の人事的枠組みとして、シニア社員へ向き合うのではなく、その先を視野に入れた社員育成、人材活用がなされれば、社会の公器としての大きな役割を果たすことにもつながるのではないでしょうか。具体的には、若いころから転勤や出向で社内外での経験を積んでもらったり、ミドルシニア社員には副業やプロボノ(専門性の高いボランティア)、地域活動など、社会的な活動を通じての学びを推奨したり、シニア社員にはライフデザイン研修だけでなく、キャリア・チェンジの可能性を探るための職種転換のサポートをしたり、また、よりていねいな個別面談を通じて、ともに次のキャリアに向けて考える機会を充実させていくことが考えられます。もはや一生を一社で過ごす時代ではなくなりますから、キャリア・チェンジは変化への対応でもあり、長期化する職業人生のリスク対策でもあることを社員に明確に伝えることが大事だと思います。―改正法の65歳以降の就業機会の確保のなかには他社での就業も選択肢に含まれるので、企業が他社への転職を推奨するなど、間違った方向でキャリア・チェンジが使われてしまう懸念もあります。どのようにお考えでしょうか。高平 たしかに、「キャリア・チェンジ=他社での就労」ありきで、65歳以降の就業確保措置の努力義務を考えるのはあまり望ましいことではないと思います。ですが、キャリア・チェンジすることで、その先の就業が長期に見込まれることもあります。そして、その意思決定をす

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