エルダー2022年1月号
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特集シニアのキャリア・チェンジエルダー23もっと簡単にいえば『自分の読みたい本を選べばよい』と思っています。店内にたくさんジェンダーの本が並んでいます。もちろん読みたい本であるけれども、もっと自分が学ぶ必要があるという自戒も込められています。記者時代に僕は、自分の視点にこだわってきました。そういう意味では、仕事に対する考え方は一貫しているかもしれません」と楽しそうに話す。順風満帆なことばかりではない家族や周囲の人たちの協力が力に名刺で宣言した通り、落合さんは2017年4月にブックストア「Readin’ Writin’」をオープンした。開業から4年、落合さんの書店はしっかり地域に根を張り、常連客も少しずつ増えているという。本の販売だけではなく、記者経験を活かしてライティングの個人レッスンを行ったり、読み手と書き手をつなぐイベントを定期的に開催するなどして、「Readin’ Writin’」のファンは確実に増えてきており、落合さんのセカンドキャリアは順調に前に進んでいる。最後に、キャリア・チェンジを目ざす人たちにアドバイスをいただいた。「一目ぼれの店舗を改装した際、本棚を可動式にしたこと、中2階に畳を敷いたことなどが、その時点ではあまり予測していなかったイベントを開催することにつながるなど、偶然が重なってのいまがあるように思います。開業に向けてたくさんの人に話を聞きました。僕は新聞記者という仕事が長かったため、人に話を聞くことに慣れていたので、そういった意味では恵まれていたかもしれません。しかし、前職がどんな仕事であったとしても、大切なのは目標を決めたら愚直にそこへ向かっていくことだと思っています。起業セミナーなどで、プロから謙虚に学ぶことも大切だと思いますし、そういった場では実にさまざまな人たちが熱心に参加しており、刺激を受けました。そして、キャリア・チェンジに一番必要なのは、家族の協力ではないでしょうか。僕は家族と一緒にご飯を食べたくて、夕方には店じまいしています。ここまで決して順風満帆できたわけではなく、一つひとつの課題を乗り越えてきました。人生は何が起こるかわからないから面白いのです。僕が読みたいと思った本を嬉しそうに買っていく方に出会うたび、思い切って転身をしてよかったと心から思います。僕が新聞記者時代に知り合った方がひょっこり店をのぞいてくれることもありますし、どこで人がつながるかわからないというのも、面白いなあと思います。人とのつながりを深めるためにも、これからもイベントを開催するのはもちろん、何か新しいことを仕掛けていこうかなと考えているところです」落合さんによれば、書店の数が減少傾向にあるなかで、個人経営の書店はむしろ増えているという。落合さんは自分の読みたい本を売るだけだと語るが、常に時代の少し先を視野に置きながら、多くの人に読んでもらいたい名著をていねいに選び抜いている。長い記者経験のなかでつちかってきた経験や人脈を活かし開業準備を行い、自分のこだわりを詰め込んだ仕事場をつくり、新しい分野で活躍する落合さん。生涯現役時代における仕事や社会とのかかわり方の理想の姿がそこにあった。「Readin’ Writin’」店内の様子

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