エルダー2022年1月号
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2022.128つまり、高齢者雇用は、企業で働く若者から中堅、そして高齢層のすべてを含めた働き方を考えることにつながっていくものだと受けとめていただければと思います。日本の高齢化の現状を七つの特徴からみる日本の高齢化には七つの特徴があります。一つめは「高い労働力率」。他国に比べて60代以降も働いている人の割合が高く、特に、男性は60代後半でも約半数が働いています。二つめは、「高齢化のスピードが速い」こと。65歳以上人口の割合が7%から14%になるのに要した「倍化年数」をみると、フランスは126年かけてゆっくり高齢化していきました。ヨーロッパのなかで比較的速いドイツでも40年です。一方、日本はわずか24年(1970年→1994年)でした。しかし、日本より速い国があります。シンガポールは17年、韓国は18年、それから中国はまだ14%に達していませんので正確な年数ではありませんが23年ないし24年くらいだろうといわれています。国際連合が65歳以上を高齢者と定義したのは、1956年のことです。当時の65歳は、おそらく老人といっても違和感がなかったのでしょう。しかし、この65年間に医療が発達するなどして、個人差はありますが、現在の65歳に老人というとムッとされる方が多いのではないかと思います。ですから基準を変えて、70歳以上、もしくは75歳以上を高齢者と定義すると、いろいろ違った状況が見えてくるかもしれません。三つめの特徴は、「社会を支える側の人はあまり減っていない」ということ。私たちの社会は、働いて社会を支えている人と、その人たちによって支えられている人に分けられます。支える側にいる人の割合が変わらなければ、社会の活力は維持できるはずです。65歳以上の人を何人の現役世代で支えているかというと、1950年には12人で1人を支えていました。2020年は、2人で1人。将来的には1・3人で1人という、たいへんな社会が来ると予測されています※1。しかし、総人口に占める就業者の割合は、50%前後で推移しており、むしろ最近は徐々に上がってきています。社会を支える側にいる人が半分を超えているのです。この割合をいかに維持していくのかがたいへん重要であると思います。また、興味深いデータがあります。65歳以上の有業率と後期高齢者医療費の関係をみてみると、65歳を超えて働いている人が多い都道府県では、県民1人あたりの後期高齢者の医療費が少ないのです※2。つまり、働き続けることで健康を維持することができ、医療費の増大をある程度抑える効果があるということです。四つめの特徴は、「高い労働意欲」です。2014年の内閣府の調査によると、60歳以上で働き続けている人に「何歳まで収入のある仕事をしたいか」と聞くと、70歳かそれ以上と答えた人が約8割となっています。五つめの特徴は、「仕事のための能力開発に対して、50代を超えると消極的になる」ということです。50代前半・後半で、職業訓練や自己啓発をした人は、男女ともに50%以下で、このままではまずいと思います。60歳、65歳、そして70歳を超えて働き続けるためには、企業が「雇いたい」と思うような能力を持っていなければなりません。しかし、50代になると、企業も本人も教育訓練に費用を出そうとしなくなるのです。そのため継続的な能力開発が、喫緊の課題であると考えています。六つめの特徴は、「労働力人口の減少」です。2017年の実績から、さまざまな策を講じたとしても、2040年には506万人が減少する見込みです。一方で、AIが人の労働を代替するという話がありますが、どれくらいのスピードで、どれくらいの量を代替してくれるのか、現状ではまだ不透明です。しかし、労働力※1  内閣府「平成28年高齢社会白書」より※2  厚生労働省「平成29年度後期高齢者医療事業状況報告」より

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