エルダー2022年1月号
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エルダー35FOOD日本史にみる長寿食食文化史研究家● 永山久夫「七なな草くさがゆ」でインフルエンザを防ぐ「唐とう土どの鳥」が疫病を運んでくるインフルエンザなどの厄介者を追い払ったり、予防することを昔は「厄払い」、「厄除け」といって、普段から用心していました。厄除けは、病気から身をガードして寿命を延ばすための日本人の古くからの知恵で、年中行事のなかにも組み込まれています。そのよい例が、お正月の「七草がゆ」です。1月7日の朝の行事で、春の七草をまな板の上で叩きながら、「唐土の鳥が、日本の土地に、渡らぬ先に、ストトン、トントン」などと唱えます。「唐土の鳥」というのは、中国大陸方面からの渡り鳥のことで、この季節になると、悪性の風邪が流行することが多かったために、人びとは渡り鳥がインフルエンザなどの疫病を運んでくると恐れ、用心していました。今回の新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、海外でコウモリに寄生していたウイルスから始まったとも伝えられていますが、昔の日本人は直感的に海外から運ばれてくると用心し、その予防を行事化していたのです。すばらしい知恵ではありませんか。「唐土の鳥」が飛来してくる前に、熱々のおかゆを食べて体温を上げて抵抗力を高め、七草の若葉に多いビタミンCやカロテンを摂り、免疫力をパワーアップして、感染に備えていたのです。「七草」の機能性成分若草に豊富なカロテンは、一部が体内でビタミンAになり、喉などの粘膜を整え、体内へのウイルスや細菌などの侵入を防いでくれます。七草がゆは、「ファイトケミカルおかゆ」と呼んでもよいでしょう。ファイトケミカルというのは、植物が持つ機能性成分のことで、野菜や果物などが有害なものから自分を守るためにつくり出す薬効成分で、色や香り、辛味、苦味といった化学物質のことです。その成分は野菜などの種類によっても違いがありますが、「セリ、ナズナ、ゴギョウ(ハハコグサ)、ハコベラ、ホトケノザ(コオニタビラコ)、スズナ(カブ)、スズシロ(ダイコン)」の七草にはいずれもビタミンや薬効成分が豊富に含まれています。339

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